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『大魔法少女』-1/3 「君は暇人だな」と神様が唐突に吐いた暴言に、すれ違う他人に舌打ちをされるくらいムカついた。 いつのことだったか、バトル観戦していた時に通りがかったウェスペリオーの武装が肩に当たり、文句を言ったら舌打ちされてリアルバトルに発展したことがあったけど、今のムカつき度合いはその時くらいのものだ(ケンカ両成敗で神姫センターを1ヶ月出入り禁止になったけど、高級そうな武装をセイブドマイスターでブチ抜いてやって大満足だった)。 漫画をめくる手を止めず、私のほうを見向きもしないくせに、暴言は確実に私をターゲットにしていた。 「なによ、藪から棒に」 「藪から棒も蛇もあるもんか。僕がこうして暇つぶしに来てやった時は必ず漫画を読むか二度寝してるじゃないか。生きてて楽しいのか」 確かに私は今、漫画を読んでいる。 先週マスターが買ってきた『ストライクウィッチーズ』は私と同じ装備の女の子が世界の命運を賭けた戦争で活躍する傑作で、何度でも読み返したくなる。 特にトモコっていうキャラが私と瓜二つということもあり、『ストライクウィッチーズ』は今、私の中で密かなムーブメントを巻き起こしていた。 そんなことは、どうでもいい。 「なんで漫画読んでるだけで人生を否定されにゃならんの? ねえ?」 「人生じゃないだろ、暇人生だ」 漫画を思いっきり投げつけた。 ニヤニヤしたオールベルンはそれをひらりと躱した。 「あんただって漫画読んでるでしょうが!」 「おいおい僕は神様だぜ。二度寝しようが漫画を読もうが、何したって許されるに決まってるだろ」 積んであった漫画をもう一冊抱えて投げた。 神様も再び躱し、あくまでニヤニヤした表情を崩そうとしない。 「戦場を住処とする武装神姫は一日中トレーニングに明け暮れるもんだと思っていたが、違うのか」 「そんな努力家なんてほんの一握りよ。バトルで緊張しっぱなしなんだから、それ以外は人並み以上に息抜きしたくなるもんなの」 「人並み? 暇人並みの間違いだろ」 「やけに突っかかってくるじゃない。なんなの? 死ぬの? 私はリアルバトルでも全然構わないのよ」 「そんな強気こと言っていいのか。僕のメンテ無しじゃ、トレーニング用のネイキッドにすら苦戦するんだろう」 「んなワケあるかい! 3秒で倒せるわ!」 これは誇張でも何でもない。 そもそもバーチャルトレーニングで使える練習用ネイキッドは無料お試し版しかなく、のっそり動く相手ではセイブドマイスターの調整くらいにしか使えない。 有料版ならネイキッドの武装や強さのレベルを自由に設定できるらしいのだが……そんな贅沢品に手を出せば、代わりに弾薬すら買えなくなってしまって本末転倒だ。 これでも私は、消耗品を補充してくれることについてはマスターに感謝している。 だから有料版をおねだりはしないし、無駄に弾を消費するトレーニングもしない、というのが、私が積極的にトレーニングをしない理由だ。 そんな事情を知ってか知らずか(いや知るはずないんだけど)、神様は「まあネイキッド云々は置いといて」と自分で言ったことを軽く流してしまった。 「君は僕との約束の最中だぞ。人間に昇華するためにはあと六人の神姫を倒さねばならない。しかも次の相手は知らぬ者のない強敵『大魔法少女』だ。漫画を読む時間どころか寝る間すら惜しんで特訓に励むのが普通だろう」 「付け焼刃の特訓をしたってどうにかなる相手じゃないわよ。それにね、あんたはいつも夜中と朝だけココに居座ってるけど、私はやるべきことは日が高い昼間にやる主義なの」 神姫の皆が皆、ゲームのキャラのように部屋を掃除したり、戦いに明け暮れたり、事件を追いかけたり、マスターとキャッキャウフフしていると思うのなら大間違いだ。 身長が15cm程度ってだけで人間と変わらない私達は、いろんなことをやる。 私にしても、この後の用事が今から楽しみでしかたがない。 誰かに惚気るように話したくなったりするのだが、神様は「ふうん」と興味無さそうにつぶやき、漫画から目を離そうとしない。 というかコイツ、さっき私のことを「暇人」と言ったのも、呼吸をするような思いつきで私を貶したかっただけじゃないのか。 自分が一番の暇人のくせに。 ◆――――◆ 職でも探しに行くのか、マスターは朝から出かけていることが多い。 神様もいつものように、正午を過ぎると、読み散らかした漫画を片付けずにどこかへ行ってしまった。 今からの時間は、私の人生――いやさ神姫生が最も潤う時だった。 鏡に映った自分の姿を念入りにチェックしていく。 「髪よーし。服よーし。ストライカーよーし」 最後に頬をパンと叩くことで引き締め、ストライカーに点火した。 小窓まで飛び、鍵を空けて窓を開け放つと、澄んだ空気が部屋に流れ込んできた。 大きな深呼吸で体内の淀んだ空気が浄化される。 「さあ、行きますか!」 邪魔するものの無い、高く、広く、そして青い空へ。 せっかくのフライト日和だし、今日はいつもと違うコースを飛んでみようかしらん。 少しくらい遠回りをして時間がかかるのも、たまには乙というものだ。 ハルと会う約束があるといっても、日時や時間まで決めているわけじゃないんだから。 ◆――――◆ 窓からコッソリ中を覗くと、ハルはいつものように文庫本を広げていた。 首元にポニーテールを垂らし、神姫には大きすぎる文字を追うその姿をずっと見ているだけで日が暮れてしまいそうだ。 なんとか目を離し、毎度の義務のようにワンルームの中を見回しても、やはりあの人は不在だった。 私のマスターとは違って仕事が忙しいあの人は、夜ですら不在なことが多いらしい。 会えるチャンスは多くないのだ。 つい溜息をつきたくなるが、グッとこらえて窓をノックした。 私はハルに会いに来たんだ、落ち込む理由なんて最初からない。 頭を上げたハルが窓の鍵を空けて、中に入れてくれた。 「やあ、今日はいい天気だな」 これである。 この声である。 何度聞いても飽きることのない、凛々しい声を聞くために私はここまで来たのだ。 「いい天気、って言っときながら部屋で本読んでるじゃない」 「今日はあなたが来る予感があったんだ。私を連れ出してくれるんだろう? なら、お楽しみは取っておかなくては」 これである。 この微笑である。 何度見ても飽きることのない、アスファルトに力強く咲く花のような表情を見るために私は生まれてきたのだ。 「えへへ。ねえ、ハ~ル?」 「ん、なんだ」 「ううん、呼んだだけ」 「ははっ、おかしなやつだな、ホノカは」 これである。 このハルである。 世界中の映画館で人々を虜にしてしまう大女優を独り占めしている気分だ。 戦乙女型アルトレーネ。 各神姫メーカーがこぞって軽装備、低価格神姫を発売していたライトアーマーブームをぶった切るように現れた、重装備の高級機種。 私の生みの親、フロントラインが天使・悪魔型の改良を急いだあまり中途半端な装備で世に送り出し、後に『フルアームズ』が完全版商法と揶揄された原因は、これまでの武装神姫の性能を覆す戦乙女型に対抗したことにあったとかそうでないとか。 コストに見合った性能は期待を裏切らず、未だ品薄の状態が続いている。 その一方で、発売当初に戦乙女の幻想を叩き割ったAI「なのです」や、近所の神姫センターでは『第n次戦乙女戦争』が頻繁に勃発するなど、批判が絶えることもない。 そんな天然ボケ娘――アルトレーネの中で唯一、本物の戦乙女となり得たのが、ハルヴァヤだ。 ロット生産されたアルトレーネとは思えない気高さ。 「……カ」 瞳の奥で静かに燃える炎。 「……ノカ」 ハルの炎にこの身を焼き尽くされたい。 ハルにだったら、私は――。 「おい、ホノカ」 「は、はいっ!? なんでしょう」 気がつくとハルが私の顔を覗き込んでいた。 キスしてもいいだろうか。 「どうしたんだ、急に気が抜けてたぞ。調子でも悪いのか」 「う、ううん、なんでもない。そろそろ出かけよっか」 頷いたハルは並べてあったスカートアーマーを装着して、鷲のように大きく広げた。 背中から翼のように広げるのではなく、あくまでスカートアーマーのままで空を飛ぶ――これがハルの、訳ありな飛行形態なのだ。 陸上戦だけでなく空中戦も可能なアルトレーネだが、地を蹴っての戦闘に特化してきたからか、ハルは飛行を大の苦手としていた。 それを聞いた私が、空を飛ぶスペシャリスト(自称)であるこの私が、飛行のコーチを買って出たのだ。 有り体に言えば、ハルと優雅な空中散策――つまりデートをする口実を得たのである。 先に離陸した私を追うようにハルも飛び上がったが、勢い余って私を追い越してしまった。 ハルの翼じゃ私のストライカーのようにはいかないとはいえ、まだまだ自在に空を飛ぶには慣れが必要なようだ。 大回りに旋回して戻ってきたハルは肩から紐で鍵を下げている。 「すまないが、窓を閉めてくれないか。私が近づくとガラスを傷つけてしまいそうなんだ」 窓を閉めて、ハルがリモコンで鍵をかけた。 と、ふとマスターの部屋の窓を開けっ放しだったことを思い出した。 「……ま、いいか」 ◆――――◆ 最初はどう贔屓目に見ても、ハルの飛び方は褒められたものではなかった。 初代アーンヴァルよりも大きな翼はハルの手に余り、風が吹けばそちらに流され、逆方向に吹けば舵を取れずに失速、数メートル下のアスファルトに突進していった。 泳げない子の手を取ってバタ足を練習するイメージでいた私は、飛行訓練がそんなキャッキャウフフしたものでないことを初めて知った。 空中で溺れそうになるハルを抱きしめる幻想など、しょせん幻想でしかなかったのだ。 私のような空を飛ぶために生まれてきた神姫と、そうでない神姫との間には、これほどまでの差があるらしい。 いや、アルトレーネは地上戦がメインの神姫だけど標準で空も飛べる仕様だし、ハルだけが特別なんだろう。 他は優れてるのに、天は二物を与えなかったのか、飛行に関してはちょっと悪い方向に特別、というか。 「嫌ってくれてもいいから、私の言うことをちゃんと受け止めてね――ハル、あなたには飛行の才能が無いわ」 断腸の思いでキッパリと告げると、ハルはがっくりと肩を落としてしまった。 でも誰にだって得意不得意はあって天は二物を与えないから云々、と言おうとしたところで、ハルは急に頭を上げ、それを勢い良く下げた。 「私に才能がないのも、迷惑なのも分かっている。だが頼む、どうしても空を飛びたいんだ」 「や、やめてよ、頭を上げて」 「絶対に空を自由に飛ぶ翼が必要なんだ。ギンとの一戦といい、これ以上あなたに頼ってはいけないのは分かっている。しかし――」 「分かった分かった、分かったから頭上げてってば……理由は聞かないけど、私がコーチを断ったって一人で練習するつもりでしょ? 危ないからやめろって言っても聞く耳もたなさそうね」 済まなさそうにハルは頷いた。 こんな顔をされて、ノーと言える飛鳥なんていない。 「言っとくけど、今のままじゃ地面に激突して粉々になるのが目に見えてるから、練習じゃ容赦しないわよ。最低でもこの『セイブドマイスター』と空中格闘戦でタメを張れるまで続けるからね」 「ああ、恩に着る。これからよろしく頼む」 ぱぁっと明るくなるハルの表情の眩しさが、この時ばかりは痛かった。 城尊公園の望楼を貸し切っての飛行訓練は、苛烈を極めた。 「そっち地面! 地面に向かって飛んでどうするのよっ!?」 「う、上はどっち、うわああああああああああっ!」 追いつけない速さでハルが芝生に急降下していく。 コンクリートよりマシといってもあのスピードじゃ助からない。 もうダメだ! と思ったその時。 ハルは翼を変形させてスカートアーマーに戻した。 身体を半回転させて姿勢を立て直し、空気を踏むようにエアダッシュで制動をかけた。 落下の勢いは完全には殺しきれなかったが、私がハルに追いつく余裕ができる。 手を取り合って、芝生につっ込みはしたが、なんとか不時着に成功した。 「はぁ、はぁ……す、すまない。今のは本気で死を覚悟したよ」 「どうして、ケホッ、うぺっ、土が口の中に……飛行形態の時だけパニックになるのよぉ」 「自分でも、分からないんだ……すまない」 空を飛ぶ才能がなくても、練習すれば最低限、遊覧飛行くらいはできるようになる――そう思っていたのだが、練習を繰り返すうちにそれ以前の根本的な問題が見えてきた。 どうしてだかハルは、スカートを翼に変えるフリューゲルモードになるとパニックに陥ってしまうのだ。 しかも空を飛ぶ時だけならまだしも、実は地に足が付いている時でさえ、翼を広げた瞬間から顔をこわばらせてしまうらしい。 空を飛ぶことを怖がっているわけではない。 さっきのようにスカートを通常形態に戻せば落ち着きを取り戻してくれるのだ。 元々ハルは決して空中戦が不得意というわけではなく、エアダッシュで空戦型を撃墜するところを何度も見ている。 さらにアーマーの使い方だって言うまでもなく自由自在だ。 だというのに。 「背に翼があると、とてつもない不安に襲われるんだ。絞首台のロープが首にかかっているような……変なことを言っているようだが、この例えが一番的確なんだ」 らしくもなくブルッと震えるハルを見れば、それが嘘でないことは明らかだった。 アーマーに不具合でもあるのかと、試しに私がアーマーを借りて装備してみたが、問題なく飛ぶことができた。 「それは生まれつきなの? ハルヴァヤとして目覚めた時からの体質?」 「いや、私はあまり飛行形態になることはなかったが、少なくとも起動してしばらくはこんなことはなかった。だが半年ほど前、何気なくフリューゲルモードになった時から突然のことなんだ、この抗いようのない恐怖が始まったのは」 「心当たりは?」 ハルと頭を振った。 分かりやすいことに、この飛行訓練の一番の近道は、ハルが得体の知れない恐怖心を克服してくれることだ。 でも、得体が知れない以上、どうやって克服すればいいのか見当もつかない。 空に慣れてもらおうと何度か飛んでもらっているけど、その方針は間違いだった。 好き嫌いの多い子供に知恵を絞ってピーマンを食べさせようとか、そんな話じゃない。 ハルの場合は、【飛行形態に対するアレルギー体質】といってもいい。 特訓を重ねれば重ねるだけ、いたずらにハルを苦しめるだけだった。 「このままでは、いつかあなたまで墜落に巻き込んでしまう。……いや、それは言い訳だな。怖いんだ、私は。階段の十三段目が開き、首にかかった縄が絞まる感覚に襲われて……」 恨めしそうにハルはスカートアーマーを見ている。 自分の装備に苦しめられることがどれだけ辛いかは、昔ストライカーに振り回されていた私だからよく分かる。 だからこそ、ハルには絶対、空を飛ぶ自由を知って欲しかった。 「私から言い出しておいて申し訳ないが、この特訓は――」 「特訓は続けるわよ。言ったでしょ、ちゃんと飛べるようになるまで容赦しないって」 言い方が悪かったからか、ハルの私を見る目がハートマン軍曹か何かを見ているような感じに変わった。 「あ、ううん、誤解しないで」怯える戦乙女を落ち着かせようと、ハルの頭を胸に抱いた。 サラサラのポニーテールが指の中に零れた。 どさくさに紛れて髪の香りをかいだ。 イッツ、フローラル。 「敵のいない空で怖がることなんてない。ハルの足を引っ張る恐怖は私が取り除いてあげる」 大袈裟に「恐怖を取り除く」なんて言ってみたけど、解決策はすごくシンプルで、要するにフリューゲルモードにさえならなければいいのだ。 ハルのアーマーはスカートにする時は腰に、翼にするときは背中に装備する。 ではスカートを大きく展開するように翼を作ってみてどうか? これが上手くいった。 腰の位置から翼を広げたハルは怯えることなく、空へと浮上することができた。 試してみた最初の頃は、 「見てくれホノカ! 飛んでいるぞ! なのに全く恐怖心がない!」 恐怖を克服できた代わりに頭のほうに重心が寄っているため、「飛んでいる」というよりは「腰が翼にぶら下がっている」という感じに見えた。 しかしこれでようやく、まともな飛行訓練を始められるようになったのだ。 私の言う【まともな飛行訓練】とは何か? そんなの決まっている。 誰にも邪魔されることのない広い空で、ハルとキャッキャウフフすることだ。 コツさえ掴んでしまえば早いもので、あっという間にハルは正しい姿勢での飛び方を習得してしまった。 まだフル装備で飛ぶまでには至っていないけど、今、私の横にくっついて真っ直ぐ進んでいるように、しっかりと翼で風を切っている。 「なあ、ホノカ」 前を向くばかりでなく、こうして私の方を向いて話しかけてくる余裕も出来た。 そのことが飛行の教官として嬉しくもあり、また寂しくもあった。 「何?」と、できるだけ寂しさを押し隠して応えた。 「今日は少し、遠くへ行ってみないか。いつもは城尊公園まで往復するだけだが、そろそろ行動範囲を広げてみたいんだ。神姫センターくらいまでは飛べるようになりたいんだが」 「神姫センター? ちょっと遠くない?」 「勿論、あなたが危ないと判断すればやめておく。無理して行こうとは思わないんだが、どうだろう」 「遠いのも心配事ではあるんだけど、それ以上に町中って空が狭いから公園より危ないのよね、他にも電線とかカラスとか……ま、その時は私が何とかすればいいか。ハルもいつも以上に警戒すること。いいわね」 「ああ、了解」 高い建物は神姫センターがある駅の周辺にしかないから、しばらくはいつも通りのフライトが続いた。 駅の方へ進むにつれて眼下では、だんだんと人通りが増えていく。 日に焼けて色褪せた貯水タンクを屋上に備えたアパートのように古びた建物の代わりに、一面をガラス張りにしたビルが土地を占めるようになっていく。 私達の真下を電車が通り過ぎた時だった。 「ヘイガールズ、絶好のフライト日和だな。君らも『大魔法少女』を見物に行くのか」 私とハル、その横に並ぶように【クレイドル】が飛んできた。 【クレイドル】が、である。 私の知り合いに【クレイドル】っていう名前の神姫や鳥やスーパーマンがいるわけじゃなくて、寝る時やネットダイブする時に寝転がるあの【揺りかご】だ。 側面に羽がついているとか、ヘリコプターのようなローターがついているとかじゃなく、【クレイドル】そのまんまの形で、まるで魔法の絨毯のように空を飛んでいる。 接続ケーブルを尻尾のようにぶら下げたまま。 絶句するハルがバランスを崩すのは予想できたため、舵を切り損ねる前に手をとってあげた。 どうして私がこんなに冷静でいられるのか? それは、クレイドルの上でくつろいでいる神姫が、ムカつくくらいニヤニヤしてるオールベルンだったからだ。 「あんた何やってんのよ!」 神姫センターまで溜め込んだセリフを吐き出すように、神様に詰め寄った。 ハルは神様が乗ってきたクレイドル(?)をまじまじと見ている。 「なんなのよあのクレイドルは! 意味が分からない! シュールにも程がある! あんたを見つけたとこに私がいて良かったわよ! もしハルが一人であんたと出くわしてたら間違いなく墜落してたわ! 神姫なら神姫らしく普通の武装で飛びなさいよ! なんでいちいち奇をてらうのよ! そんなに楽したいの!? 空でも寝そべりたいの!? だったら始めからよォ、あんたの家から出るんじゃあねェェェェ――――ッ!」 「はっはっは、今の最後のほうの言い方、ちょっとジョジョっぽかったな」 怒りにまかせた右ストレートを、神様は片手でパシンと受け止めた。 「おどかすつもりはなかったんだぜ。ただクレイドルから起き上がるのが面倒でね」 「もしかしてあんた、私達のことをつけて来たの?」 「人聞きの悪いことを言うなよ、偶然さ偶然。僕も君らも同じ場所へ向かっていたんだから、いくら広い空とはいえ偶然出会っても不思議はないだろ?」 「いけしゃあしゃあとよく言うわ。さっきあんた『大魔法少女』って言ったじゃない、何かあるんでしょ。まさか今から戦えってんじゃ……」 「二人は知り合いなのか」 クレイドルを調べ終わったハルが戻ってきて、話を打ち切らざるを得なかった。 私が七人の神姫を倒して願いを叶えること、次の相手が『大魔法少女』であること――他人に知られたら契約が無効になるという神様の言葉を信じるなら、できればハルには神様の存在を隠しておきたかったのに。 そうでなくても、こんな変人の知り合いがいるなんて、知られたくなかった。 せめて神様云々という妄言だけでも隠しておかないと、面倒なことになりそうだ。 「私はハルヴァヤという。いつもホノカには世話になっているんだ。ホノカ、そちらは?」 「あー……こいつはね、えっと」 「神様だ」 「おいコラァッ!」 「隠すことなんてないだろう、君らの上位の存在が堂々としていて何が悪い。ああ、ハルヴァヤ君だったか、いつもこの飛鳥に話を聞いているとも。今後とも贔屓に頼むよ」 「ははっ、なるほど神様か。ならばあのクレイドルも説明がつくな。少し調べたが、この神姫センターで買えるのと同じクレイドルだった。ホノカにはすごい知り合いがいるんだな」 ハルの懐が深くて助かった。 さすがに本物の神様とまでは信じていないんでしょうけど、変なことをやらかす神姫、くらいの認識が丁度いい。 「こんな奴と知り合ったって、何もいいことないわよ」 「そんなことはないさ、すばらしい知人がいることは本当に羨ましい……いや、本当だ。はあ……」 急に遠い目になったハル。 どうしたの、と聞こうとした時だった。 そいつは夕立のような唐突さでやって来た。 「お姉さまぁぁぁぁあああああああっ!!」 甲高い叫びが響いたと同時、ハルが後ろにスッと身を引いた。 ハルがいた場所を、神姫がものすごい勢いですっ飛んでいった。 「ぎゃんっ!?」と床に腹から落ちたのは、真っ赤なチャイナドレスに金の龍をあしらったマリーセレスだった。 神様を見たハルのように、今度は私が面食らう番だった。 ガバッと頭を上げたマリーセレスは、呆れ顔のハルを見るなり目を潤ませた。 「ひっ、ひどいですぅお姉様……せっかく久しぶりにお会いできたのにぃ、どうしてレイを避けるですぅ」 「人が見ている前で、よく恥ずかしげもなくそんな行動ができるな」 「ジャガイモやカボチャの目なんてぇ、気にするほうがおかしいですぅ。お姉様はレイの目だけを気にしてればいいで……スンスン。おかしいですぅ、お姉様以外からお姉様の香りがするですぅ」 自分のことをレイと呼ぶ神姫は突然、鼻をヒクヒクとさせながら辺りの臭いを嗅ぎまわった。 壁、床、神様、神様のクレイドル、そして私まで来たところでピタリと止まった。 目の前で止まった頭のお団子二つを、無性にもぎ取りたくなって手を伸ばした。 するといきなり手首を掴まれ、レイは犬のように私の手を嗅ぎまわった。 「お姉様の香りがするですぅ」 「はぁ?」 「このクソアマッ! ヘドがこびりついた汚ねェ手でお姉様に触れてんじゃあねェェッ!」 噛み付かれそうだったので慌てて手を引っ込めると、レイは踵を返してハルの元へ戻っていった。 いきなり現れてなんなのよコイツ、頭おかしいんじゃないの。 と、レイが自分のドレスの左肩口を掴み、袖を引き千切った。 「どこを汚されましてぇ、お姉様」などと言いつつハルの体を千切った袖で拭き始めたところを見るに、本当に頭がおかしいようだ。 丹念に腹部をこすられるハルは、無表情だった。 しかしその無表情の奥には、竦み上がってしまいそうな何かがあるように見えた。 「レイ、二度は言わない。ホノカに謝罪しろ」 今まで聞いたこともないハルの低い声に、しかしレイは聞く耳をもたなかった。 「はぁ……なんて美しい肢体ですのぉ。頬ずりしたいのにぃ、でもレイが触れるとこの美しさが損なわれる葛藤が――」 パン 軽い音がしてレイの頭が揺れ、私は目を疑った。 強くて優しくて気高いハルに、【ビンタ】という行為があまりに似つかわしくなかったからだ。 「私はな、レイ」手が体を拭いたまま固まるレイの両肩に、ハルが手をかけた。 「あなたを友人だと思っている。そしてホノカも友人で、二人が初対面であっても私達は仲間だ。だから仲間が仲間を侮辱する行為は良くないことだ。分かるかレイ、私は悲しいんだ」 ハルの言い方はまるで、小さな子供に物の善悪を教えているようだった。 マリーセレスがスモール素体ということもあって、よけいに大人と子供に見えてしまう。 「あなたが私に好意を持ってくれていることは嬉しいんだ。しかし――」 「知らんですぅ!」 突然レイの首がグリンとこちらを向き、大粒の涙を流しながら睨んできた。 それも束の間、ハルの手を振り払って、走って逃げてしまった。 「お姉様のあほたれェェェェ――――ッ!!」 という捨て台詞を残して。 それを黙って見届けたハルは、一度で数年は年をとりそうな大きさのため息をついた。 「あの、なんか、ごめんね?」 「ホノカが謝ることなんてない。私こそ、不愉快な思いをさせてしまって申し訳ない」 「でも一応、お友達、なんでしょ? なのにビンタなんて……」 「ああ、そのことか。気にするな」 これまたハルらしくもなく頭をポリポリとかきながら、再び大きなため息ひとつ。 「ぶったのは、これで六回目だ」 苦労人ハルヴァヤの意外な一面をまた見つけたというのに、得した気分にはなれなかった。 ◆――――◆ 「『清水研究室 第三デスク長』のギンや」 変なヤツというのは連鎖して登場したがるものらしく、神様、レイの次に現れたのは、私とハルが力を合わせて撃破した『13km』のギンだった。 この白衣を着た細目のラプティアスを見ることは二度とないだろうと思っていたのに、随分と早い再登場だ。 ただ、今回は私やハルの敵として現れたわけではなく、筐体の壁を挟んだ向こう側にいる。 ギンには、私達が観戦していることなんて知る由もないだろう。 障害物も高低差もないシンプルなステージに現れたギンは、以前戦った時と同様に大きなエネルギーボックスを側に置き、手には火炎放射器のようなビームソード『神殺槍』が握られている。 「ホンマはこないギャラリーがぎょうさんおる中でバトるのは勘弁してほしいとこなんやで。ボクの手の内がバレてしまうからや。それでもあえて出てきたんは自分、『大魔法少女』にボクんとこの研究室に何が何でも入ってもらうためや」 ギンの助手で黒いアーティル、イヅルの姿はどこにも見えない。 単身でバトルに臨むつもりのようだ。 見晴らしの良いステージではイヅルの索敵能力は不要なんだろうけど、このステージでのバトルはギンにとってかなり不本意に違いない。 ステージの端から端まで届くビームソード『神殺槍』はかなり強力だが、それ故に、バトルの相手、さらには多くのマスターや神姫の目に晒してしまっては、今日以降、何らかの専用対策を用意されてしまうはずだ。 これは強い神姫――特に神様の言う【特化型】であれば避けられないハンディキャップだ。 有名すぎるあまり、特性や攻略法が広く知れ渡ってしまう(私のような無名神姫に言わせれば、このハンディキャップはある意味で羨ましい限りだが)。 そしてギンは、戦う相手にさえ武装を見せずにバトルを終わらせるために、ほとんど非戦闘要員のイヅルを自分の【目】の代わりに連れて回るほど、そのことを恐れていた。 にもかかわらず、こうして観衆の視線の中に飛び込んできた。 この一戦のために――『大魔法少女』と戦うためだけに。 「でも自分をメンバーに引き込めるんやったら、ボクの秘密なんて安いもんや。せやから約束はキッチリ守ってもらうで、『大魔法少女』。ボクが勝ったその瞬間から、おたくは清水研究室第三デスクの一員や」 ギンがツイと指さした先、シュメッターリングは僅かも怯まず、むしろ全身に勇気が満ち溢れているようだった。 「分かってる。約束は守る」 「だめだよアリベ! これじゃ相手の思う壺だよ!」 肩に乗せた使い魔(マスコットマシン)をあやすように頭を撫でたアリベは、その時だけは表情を優しく緩め、まるで生まれたての赤ん坊を抱き上げる聖母のようだった。 身に纏う武装は、元々どう見ても武装とは呼べなかったシュメッターリングのコスチュームを、一昔前の小さな子供(+大きなお友達)向けアニメ調にアレンジされている。 短めのステッキで彼女の代名詞とも呼べる『インペリアルハート』は、見た目こそ星とハートのキラキラを散りばめた玩具だが、その中に秘められた力はこの神姫センターで販売されているどの武器をも軽く凌駕してしまう。 さらに使い魔の『ゲットセット』と合わせて『大魔法少女アリベ』が完成する。 いつ見ても一級の実力者とは思えない軽装備。 ちなみにあの使い魔、実はしゃべることができず、会話はすべてアリベの腹話術であるともっぱらの噂だ。 ちゃんとAIが入っているのかも不明の使い魔を落ち着かせ、再び顔を上げたアリベの瞳は、さっきまでよりもっと強く光り輝いていた。 「あなたが勝ったら、私はあなたの手下になります。だから私が勝ったら――」 「『もう二度とそのツラ見せるな』言うんやろ、嫌われモンは寂しいでホンマ」 「私が勝ったら、もうこの世界の人たちを苦しめないと約束してっ!」 「は?」と呆気にとられるギンを一人置き去りにして、『大魔法少女』の独壇場が始まった。 このバトルというステージを見るために詰め掛けたギャラリーが湧き上がり、熱狂的なファンクラブが声を揃えてアリベの名前を叫んだ。 アリベの背後に後光のような淡い緑色の線が走り、それが互いに絡み合って大きな円を描いていく。 複雑な模様はやがて歯車を何重にも組み合わせたような魔方陣となり、アリベのつま先を地から離した。 「この世界は綺麗なものばかりじゃない……つらいこと、苦しいこと、悲しいことがいっぱいある。立ち向かう強さがなくて、負けてしまうこともあるかもしれない……だけど!」 ブン、と『インペリアルハート』を振ることで魔方陣の輝きがさらに増し、光の中心にいるアリベの姿を上へ押し上げた。 予めアリベの情報収集くらいしていたであろうギンだが、実際に正面に立つのでは迫力が違うのか、口をポカンと開いて唖然としている。 ただ呆れているだけかもしれない。 「諦めずに戦い続けた先には必ず歩むべき道が待っているの! 晴れることのない雨なんてない! 明けることのない夜なんてない! 光が届かない闇なんてないっ!」 天使に手を引かれるようにゆっくりと上昇していく姿を近くで見ようと、集まった神姫やオーナー達が筐体のアリベ側へ押し寄せていく。 私とハル、神様は逆に空いているほう、ギンの側へと回った。 「だからみんな戦わなくちゃいけないの! 勇気を振り絞って、力の限りを尽くして戦わなくちゃいけない! でも全力で戦っても負けてしまいそうになったら――その人の手を取るために私はいるっ!」 すし詰めになった観客が「「「アリベー!!」」」と声を揃えて叫び、熱狂の渦を作り出す。 特に神姫にとってアリベは、正義を圧倒的な強さで証明してくれる偶像で、崇拝すべきアイドルと化している。 遠くから冷めた目で見ている私やハルには信じられないことだが、『大魔法少女』のオンステージの度に涙を流しながら彼女の名を声がかれるまで叫び続ける神姫までいるくらいだ。 「武装神姫にとって、強さこそが全てだ」 魔方陣の輝きに、ハルは目を細めた。 「その強さを正義の名の下で執行する――執行できる彼女を崇拝する気持ちは理解できるな」 そう言いつつも、バトル前の長い前置きはあまり好きではない様子がなんとも即物的なハルらしい。 華やかなステージの対岸ですっかり悪役かつ引き立て役になってしまった白衣のラプティアスは、『大魔法少女』を相手取れば必ずこうなってしまうと分かっていたのか、ただじっとバトルの開始を待つだけだった。 「ね。ギンとアリベ、どっちが勝つと思う?」 そう聞くと、ハルは難しそうに顎に手を当てた。 「ギンの神殺槍は知っての通りだからな。どんな相手だろうと優位は崩れない。さらにこうして観衆の下に出てきたのは恐らく初めてのはずだから、ギンのことを何も知らないアリベがあっけなく斬られて終わるかもしれない……しかし」 「しかし?」 「アリベの正義にあてられたわけではないが、『大魔法少女』が負ける姿が想像できないんだ」 私もハルと同意見だ。 たぶん、この神姫センターを利用する神姫のほとんども同じくらいの認識でいるだろう。 自分達の信じる正義の使者が負けるはずがない、と。 「ここまでナメられて黙っとくのも一苦労やけど、まあええわ。一瞬でぶった斬って、その自慢っ鼻をへし折ったろうやないか」 神殺槍を構えたギンはその言葉通り、速攻で勝負を決めるつもりだ。 ようやくアリベの長い前置きが終わり、バトルの始まりを告げるコールが響いた。 この時の私には知る由もないが、ここからギンの所属する『清水研究室』の噛ませ犬としての役割が始まるのだった。 『大魔法少女』-2/3 トップへ
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第4話 「武装」 かくてユーザー登録も終わり、ようやく付属していた『基本武装』ってのを開けてみたんだが。 「……またエラくトゲトゲしいフォルムだな」 「一応『悪魔』をモチーフにしてますから……」 呆れる俺と苦笑するルーシー。 背中に付いた飛行機の翼っぽいモノからにょっきり生えた太い腕にデカい爪。 足にはやたらとゴっツいブーツが付いて、ルーシーの身長が一気に1.5倍くらいになった。 それだけでもうシルエットはすっかり別物になったが、他の装備ってのもまたアレだ。 飛行機の翼に付いてた悪魔っぽい羽は分離して大小4本のナイフになり、デカブーツの爪先には短めのナイフ。 トドメとばかりにルーシーのおさげを取り外した頭にまで、デカい触角みたいなナイフ……というか剣が2本くっつくという始末。 TVのCMじゃ白い天使に目が行ってたんであんまり分からなかったが、コレでもかというほど凶悪なビジュアルだ。 ……もっとも、装備してる本人がなんだか申し訳なさそうな顔してるのがアンバランス。 「や、別にお前のせいじゃないし」 「スミマセン……」 ますます顔を赤くして縮こまる……というか背中の腕がジタバタしてる。 自分の身体を隠そうとしてるのか? 「なんか思いっきり近距離戦闘用って感じだな」 「一応飛び道具もありますよ?」 「……ナニそのドラム缶がくっついたようなの?」 「これは『シュラム・リボルビング・グレネード・ランチャー』といいまして、状況によって弾の種類を替えられるスグレモノなんですよ」 ……コイツ、実は結構マニアか? もう1つ付いてた拳銃には『リボルバーは美学ですが弾数が少ないのが唯一にして絶対的な難点です』と微妙に不満げだったし、羽ナイフの時も『クールなトットリのナイフだ』とか言ってたし……マニアの話は濃ゆいんで流したけどな。 ……実のところ、俺たちにはもっと大事な問題があるんだから。 注:「クールなトットリのナイフ」…『グルカ・ククリナイフ』の聞き間違い。
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第1話「事の発端」 「あ~、ご主人様遅いなぁ」 出窓から小雨の降る外を眺めながら、溜息をつく。 「ね~白ちゃん、ご主人様どうしたのかなぁ?」 クッションの上に寝そべりながらテレビを見ていた白ちゃんに声をかける。白ちゃんは 「ご主人様も仕事で遅くなることはあるって言っていたでしょ? 人間には色々面倒なことがあるの、あなたも分かってるでしょ?」 なんて、クールな事をいってたしなめてくる。でも白ちゃんもさっきから、車の音がするたびに玄関のほうをばっと向いて、玄関が開く音がしないかじっと耳をすませている。 やっぱり白ちゃんも心配なんだ。マスターが何で帰ってこないのか、様子だけでも見に行きたい… この部屋はボクたちが暮しやすいように大部分のものがボクたちのサイズで作られている。 この出窓へ上がるのも、ご主人様が日曜大工で作ってくれた手すりまで付いた階段を使っている。 でも、元が人間用だった部屋だけに備え付けられたものの殆どは人間が使うための大きさだ。 ドアをあけるドアノブも、ボクらの手が届かないはるかな高みに存在している。 普段は「火事か地震の時以外は部屋から出てはいけない」と言われているから、それで問題ないんだけど、外の様子が見たい今は大きな壁となって立ちふさがる。 「どうやって開けるか、それが問題だ」 腕を組んで頭をひねるボクに、白ちゃんが訝しげな顔で 「ねえ黒ちゃん、何かろくでもないこと考えてない?」 なんて聞いてくる。そうだ! 「ねえ白ちゃん、白ちゃんの武装ユニットを貸して欲しいんだけど!」 「え? う、うん」 「じゃ、借りるね!」 「え? ど、どうする気なの?」 暇つぶし! と言い捨てて武装がしまわれている棚へ走る。白ちゃんの武装なら飛べるからノブにも手が届くはず。 てきぱきと武装を身につけ、身体を宙へ浮かべる。 「ねー、何するの?」 白ちゃんがボクを見上げながら問いかけてくる。 「ご主人様を迎えに行くの!」 笑顔でそう応えたとたん、白ちゃんの顔色が変わって、必死でボクに降りるよう言ってきたけど、ボクはやるって決めたら絶対やるもん! ドアノブに抱きつき、捻る、ガチャ…。捻る、ガチャ…。捻る、ガチャ…。捻るには捻れるけど、ドアを開けることが出来ない。 ご主人様は軽々やれることなのに。武装神姫なんて、大仰な名前が付いているのに、何でこんなに非力なんだ う。 でも挫けていられない。別の方法を考えないと… この部屋から外に通じているのは、…そうだ、出窓がある。出窓の鍵も普段は手の届かないところにあるけど、飛んでいれば届く。 ボクは方向転換し、窓の鍵に飛びつき、推力を落として体重をかけた。ググッ、カシャン! やった! バランスを崩して落ちそうになったけど、この窓はボクらの力でも何とか開けられることは知っている。 武装の力を借りれば一人でも空けられるはずだ。 ボクが窓に悪戦苦闘している間に、白ちゃんが出窓へと駆け上がってきた。 「黒ちゃん! だめ! 外は危ないって言われてるでしょ! しかももう夜なのに!」 でも一足遅い、ボクはもう出るに十分に窓を開け、外へと身を躍らせた。 後ろから聞こえてくる、白ちゃんの絶叫に罪悪感を感じながら… しとしとと降り注ぐ雨が関節に染み込んで気持ち悪い。神姫はお風呂には入れるくらいの耐水性能があるけど、同じ水なのに、お風呂と雨では全く受ける感覚が違っている… ブルッと身震いして、玄関のほうへ翼を向ける。 真っ暗で、外から見る家は、いつも住んでいる家のはずなのに、不気味で冷たくよそよそしいお城みたいだとなんとなく感じた。 出窓からも見える駐車場には、寒々しい空白が広がっている。こんなところでも、ご主人様の不在を重く認識させられる。 「ご主人様…」 愛しいご主人様の名も、口に出すと、寂寥感が胸の奥からこみ上げてくるだけだった。 「何で帰ってこないの…?」 ふらふらと、家の前の道路にまで漂い出る。さっと影が払われ、まばゆい光が 「え?」 ヘッドライト! 車が来たんだ! 身をかわさないと! キキーッ! バチン! 「キャーーーーッ!」 物凄い衝撃。翼が砕かれ、きりもみ回転しながら地面に叩きつけられる。身体がバラバラになるような、ショックで悲鳴まで飲み込んでしまう。 何度かバウンドし、それが収まったときには、本当にボクの身体はバラバラになっていた。両手は肘から吹っ飛び、腰が砕け、下半身がどこかへ行ってしまった。 車から誰かが慌てて降りてくるのを知覚したけどボクは 「人間だったら絶対助からないよね…」 なんて呟いて、そのまま意識を失ってしまった。 う~ん、なんだろう。身体が動かないや。バッテリー切れかな? でもそれなら視界の隅に電池切れ! ってでるはずなんだけどなぁ? 何か聞こえる…ボクを呼んでる? 「…黒子…しっかりしろ…」 「…起きて…黒ちゃん…お願い…」 ご主人様と白ちゃん。どうしたんだろう…? 「な~に~?」 声を出した瞬間、一気に全てがはっきりした。そうだ、ボクは車に… 「黒ちゃん!!」 「黒子! よかった、生きていたか…」 白ちゃんがガバッと抱きついてくる。目を開けると、ご主人様が目をこすりながら「よかった…」を連呼している 「黒ちゃん! あなたなんて馬鹿なことしたの! ぶつかった車がご主人様のだったからすぐに手当てして上げられたけど、両手も両足もなくなっちゃって、体中傷だらけで…うぅ、うわーーん!」 「俺も、あんなにスピード出していなければ、ぶつかる前に止まれたのに…うぅっ」 ああ、ボクはなんて馬鹿だったんだ。ご主人様が帰ってこないはず無いのに…余計な心配をさせてしまって…涙まで流させてしまって… その後、火事や地震でもないときに部屋どころか、家から出てしまった事を一杯怒られた。それだけでなく、 「身体だけなら交換で何とかなるけど、頭部にもダメージがあるから、メーカーに送らないと修理できない」 って、言われて、メーカーに修理に出されることになっちゃった。 でも、ご主人様がボクを箱に詰めるときに、ぎゅっと抱きしめてくれて 「早く元気になって、帰って来いよ…」 って、優しく囁いてくれた。しばらくご主人様にあえなくなるのは寂しいけど、ちょっとだけ幸せ。ちょっと現金すぎるかな? ボク… SSS氏のコラボ作品はこちら 続く
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神姫ちゃんは何歳ですか?第二十八話 天使の舞い降りた夜 書いた人 優柔不断な人(仮) 「おーい香田瀬、悪いけどコレを運んでいってくれ」 商品開発を終え、割と暇な年末を過ごしていると不意に営業の富士田部長からお呼びがかかった 技術部と違って営業部は戦場のような忙しさだった これから年末年始にかけ、各店舗では大規模なセールが行われる 今日日、在庫一掃セールだけでは客は来ないので、新商品や定番商品なども大量に店頭に並べる必要がある その為、我が社としても大量に発生する受注を処理しなければならない 基本的には取引をしてる運送屋に依頼するのだが… 「…全く。なんで伝票を見落とすんだ!…」 どうやら、午後の発送が終わった後に伝票が出てきたらしい 「すいません、白雪関連の伝票だったもので、分けておいたのですが…」 営業の新人が言い訳するも 「置き忘れてどーする!…全く、近くだから良かったものの…」 と一喝される 「まぁ、富士田部長、そのくらいに…彼もまだ慣れてないのですから」 「すまんな香田瀬、そういう訳でコレを『エルゴ』まで運んでいってくれるか?」 と言って俺に小さな箱を渡す富士田部長 「白雪用の補修パーツですね」 「夕方に引き取りに来るそうだ。まだ時間はあるが、道も混んでるだろうし、気を付けてな」 「分かりました、行くぞユキ!」 俺はユキをナビシートに乗せ、車を走らせた ユキのナビゲーションにより(といっても、GSPやVICS等から受けた情報をユキが教えてくれるのだが)比較的すんなりとエルゴに辿り着いた といっても、店の近くは渋滞しており、少し離れたコインパークに車を停めたのだが 「こんにちわー」 「あら、いらっしゃい」 迎えてくれたのはこの店の看板娘のうさ大明神様だ 「誰がうさ大明神ですか」 「心を読まないでくださいよジェニーさん。それより、頼まれてた物を持ってきました」 「それじゃあ、中身を確認しますので、開けていただけますか?」 俺は、ジェニーさんに言われた通りに箱を開ける 「…っと、はい大丈夫です」 ふよふよと浮きながら中身を確認するジェニーさん …いつ見てもシュールだ 「それじゃ、ハンコお願いします」 「わかりました、よいしょっと」 ぽん 伝票の上に着地するジェニーさん 再び浮くと、そこに判が押されていた 「確かに。有り難うございました」 「こちらこそ、急な発注でごめんなさいね」 「それにしても混んでますね」 さすがにシーズンなだけあって、店内は混雑していた 人も、神姫をクリスマスという事で楽しい気分になっているようだった ささやかながらも装飾された店内が、その気分を一層盛り上げてるようでもあった 「そうなのよ。売り上げも好調で、在庫が足りなくなってきそうだから、他にも色々追加で発注したのよ」 「日暮さんも無事に新年を迎えられそうですね」 元々ジェニーさんと二人でやっていたこの店も、いつのまにか自称オーナーの高階さんと彼女の神姫のオウカちゃんが増えて賑やかになっていた 「すごい賑やかになりそうですが…」 困った口調とは裏腹に、嬉しそうな顔のジェニーさん 「楽しそうですね」 「あら?香田瀬さんも大変じゃない?」 「そうですね」 「そっちも楽しそうじゃない?」 「そうですね。楽しみです」 等と話してると 「ジェニーは~ん、何時までもサボってないで、はよレジ打ちに戻ってや~」 「すいませんジェニーさん、引き留めちゃって」 「いえ、いいんですよ」 「それじゃあ俺はこれで。ユキ、帰るぞ」 俺は店内のスペースで他の神姫達と話していたユキを呼び寄せた 「あ、はーい。それじゃ、またね」 ユキが神姫達に別れを告げた後、俺達は店を出た 「うわ、変わってねぇ…」 あいかわらず駐車場は満杯、外の道も渋滞が発生していた 「離れた所に停めてよかったね…」 「そうだな…」 うっかり店の前まで来てたら出られなくなるトコだった 見れば遠くに運送屋の人も見える 俺達のように離れた所に停めて荷物を店まで運ぶようだが… 「重そうだね」 神姫のパーツだけだった俺達と違い、彼らが持っているのは大きなダンボール箱であった 箱にはラインバレル・ロボティクス社のロゴが入ってる 「神姫のフルセットか」 俺達は狭い車の隙間を歩いてくる運送屋をやり過ごす為、その場で待っていた しかし ブロォ~ン! 脇道から、一台のスクーターが飛び出してきた 「うわっ!」 ダンボールで死角となり脇道が見えなかったのか、運送屋が気づくのが遅れた 「やべっ!」 慌ててブレーキレバーを握り、急停止をするスクーター キキーッ さらに車体を倒し避ける ドスン ギリギリ当たらなかったものの、驚いた運送屋は倒れてしまった。そして… ガン! 持っていたダンボール箱がガードレールへと当たる バラッ ダンボールが破れ、中に入っていた黄緑と朱色の箱が飛び出し、イルミネーションが施されている民家の塀に当たる グサッ! 箱は二つ共、もっとも薄いウインドウ部分にプラスティックの星が当たる バチィッ! 電飾がショートし、切れる プスプスと音を立て、焦げた臭いを立てる二つの箱 「なんや?何があった…」 「来ちゃダメだ凛奈さん!」 物音を聞き店の外を窺おうと出てきた凛奈さんに俺は叫んだ 彼女にはこの光景を見せたくなかったからだ いや、神姫には見せたくなかった 出来るならユキにも見て欲しくなかった 何故なら 神姫が産声を上げることなく『死んだ』瞬間だったからだ 「すいません、ウチの方で弁償しますので…」 ペコペコと頭を下げる運送屋 結局あのままスクーターは逃げてしまい、運送屋は日暮さんに平謝り 目の前には焦げた箱が二つ並んでいる 金銭面の問題はカタがつく。運送屋もこういう時のために保険に入ってるのだから しかし、心情面での問題は… 『もし、こんな事にならなければ、どんなオーナーの元へと行ったのだろうか?』 ふとそんな事を考え、彼女達を見る 外装スキンの一部は溶け、内部骨格まで見ている ティグリースの方は右腕が、ウィトゥルースの方は両足が砕け、痛々しい 頭の方はこんなに綺麗なのに… ふと、技術者としての俺がこう考える 『まだ、直せる』 「ねぇ…お兄ちゃん…」 ユキの声に我に返る 「…なんだ?」 「この子達、直せないのかな?」 ユキも同じ事を考えていたようだ そんな俺達の会話に運送屋が割って入る 「直すって言ってくれるのは嬉しいですが、傷物になっちゃ売り物にはなりませんから…」 「いや、そういう事じゃ無いんだ」 「へ?」 俺の返事に戸惑う運送屋 「日暮さん、この子達を俺に売ってくれ」 「センパイ!こっちです!」 日暮さんを説得し、二人を引き取った俺は大急ぎで会社へと戻った 商売人として壊れた神姫を売ることに難色を示していた日暮さんだったが、思いは俺と同じなのか最後には応じてくれた ちなみに原価で譲ってくれると言ってくれたが、丁重にお断りして定価で売って貰った。安く譲って貰うと、彼女達がまるでジャンク扱いでもされるようだったからだ 勿論、日暮さんにそんな意図はないのだが 戻る途中、ユキに皐月へ連絡して貰い、緊急手術の準備をして貰っていた 「皐月、準備は出来てるか?」 「勿論です。ラインバレル・ロボティクス社の方からもデータが届いてます!」 一見無事に見える頭部だが、電気ショックを受けた為、データが飛んでしまっている可能性が高い。したがって、失われてしまったデータを再入力する必要があった 本来、神姫の根幹プログラムのデータは非公開である にもかかわらずこうして寄越してくれるのは、水那岐部長のおかげだろう 「本体の…方も…準備…出来て…ます…」 そう言って水那岐が二つの箱を差し出す 中に入ってるのは、来春発売予定の新型素体『タブリス』だ 『自由意志の天使』の名が付けられたこの素体は、先頃発売されたMMS2ndをベースに、白雪で培った技術を投入し、さらに武装神姫規格のパーツをそのまま使う事が出来るように改良された物である スペック的には通常素体と白雪LMとの間くらいだが、価格は2神姫程にまで下げる事が出来た 「まずは、損傷箇所のチェックからだ」 俺は二人をスキャン装置へとセットする 少しの時間の後、二人のダメージ状況が表示される …やはり状況は真っ赤だ 砕けた手や足は勿論、電撃に晒された本体も内部に大きなダメージを受けていた 「…でも…CSC関連は…なんとか…無事です…コアユニットは…内部に…物理的な…損傷は…ありません…」 しかし、さすがに中枢部は幾重にも保護が為されており、中枢部のダメージは無いとは言わないが思った以上に軽微だった さらにコアユニットに至っては、素体換装をする人もいるため、クレイドルでセットアップを始めるまでは仮止めのみで接続自体されていないのだ 「起動してなかった事が幸いしてますね」 起動していなかった為、過剰な電流が流れずに物理的な被害が最小限に押さえられたようだ もっとも、起動していればこんな事にはならなかったのだが 「これなら、修理すれば問題は無い。あとは頭部の方だな…」 俺は頭部を取り外し、模擬体へと接続する これは本来、初期不良が無いかをチェックする為の物である。コアユニットを作っていないウチの会社だが、白雪のセットアップで神姫を組み立てる場合も多い その場合には、各社からコアユニットとCSC中枢部、武装一式を直接取り寄せて組立て、お客様に発送するのである 「さて、内部のエラーチェックはっと…」 『感情プログラム・エラー、言語プログラム・エラー、バトルサポートAI・8,12,32エラー…』 「さすがに、半分が飛んでるか…」 消えたデータを修復すべく、送られてきたデータを入れようとディスクを探してると… 「あのねお兄ちゃん、ちょっと提案があるんだけど…」 ユキが俺に話しかけてきた 「ん?どうしたユキ?」 「あのね、その壊れちゃったデータ、私から直しちゃダメかな?」 「私からって…自分のデータをコピーして入れるってのか?まぁ出来なくは無いが…」 「ううん、そうじゃなくて、私が直すの。二人の中に入って、教えてくるの」 「…つまり、二人とユキを接続して、デバックしてくるって事か?さすがに無茶だ!一人で二人分のデバックをするなんて!」 ユキの無茶な提案を俺は止めた ユキの体は高性能な白雪のテストモデルだが、コアユニットそのものは普通の物だ。そんな高負荷かけたらどうなるか分かったモンじゃない 「一人じゃなくて、みんなでやればいいのだ」 声に振り返れば、4人の小さな人影があった ミチル、ムツキちゃん、花乃ちゃんにひじりんであった 「あ、あの…健志郎さん、私も頑張りますから」 「私はまだ他人のデバックが出来る程の経験はありませんが、みなさんをバックアップ致します」 「ひじりんも、みんなのお手伝いをするよー」 「ケンシロウ、ここで皆の申し出を袖にしては男が廃るぞよ?」 「みんな…思いは…一緒です…」 「そうですよセンパイ。みんなでこの子達を助けましょ!」 「みんな…有り難う…よし、必ず助けるぞ!」 『おー!』 と言う訳で、コアユニットのプログラム修復はユキ達神姫組が、素体の修復は俺達が行う事にした CSC中枢部の移植は俺が、それ以外の所は観奈ちゃんが行い、それを水那岐と皐月がサポートする 神姫組は模擬体とユキ、ミチル、ムツキちゃんを接続し、外から花乃ちゃんとひじりんがモニターをする 「よし、出来た。ティグリースの方の仕上げを頼むぞ」 「…センパイ、その呼び方辞めません?」 「…は?」 「名前ですよ名前!ちゃんと付けてあげないと!」 「…そうだな。実は考えてあったんだが、セットアップ時じゃ無いとマズイかなって」 「別に…セット…アップ時…じゃなくても…いいんですよ…」 「そうじゃな、ここはやはり、ちゃんとした名前で呼びたいものじゃ」 う…なんか非難されてる俺? 「えーコホン。ティグリースは『ティール』、ウィトゥルースは『ファロン』だ」 「ティールちゃんに」 「…ファロンちゃん…」 「可愛い名前なのじゃ。花乃、火蒔里、ミチル達に教えてやるのじゃ」 「分かりました」 「りょーかいっ!」 「…なんで今?いや別に良いんだが、ユキ達も大変じゃないか?」 「デバックする時には、相手の名前を呼んで上げた方が落ち着くのですよ」 「まぁコレは神姫特有のものだから、ケンちゃんは気にしなくていいよ」 「うーむ、そういう物なのか…っと、ファロンの方も出来たぞ」 「センパイ、早いですよ~」 「まぁこっちも頼む。俺はもう一つやらないといけない事があるんでな」 「もう一つって?」 「コレさ」 と言って俺は作業台の上に壊れたパーツを並べる 「コレって、二人の武装?」 「その通り。真鬼王も直してあげないとな。コッチはデータが飛んでても、神姫から写す訳にはいかないし。ついでに強化もしておこうと思ってな」 「ふえ~、見てる間に分解されていく…さすがセンパイ」 「皐月殿!こっちを忘れては困るのじゃ」 「あっ!ゴメンゴメン…」 こうして、体の方の修理は順調に進んでいった 闇 そこにはただ何もない空間が広がっていた いや、二つの光る物が寄り添っていた 一つは右腕を失った人影。もう一つは両足を失った人影 泣きそうな表情で辺りを窺っている そんな二人に三つの光が近づいた 「あう…」 「もう大丈夫だよ」 光の一つが話しかけてきた その光は人の形へとなった ユキであった 「そっか…話すことが出来ないのだったのだ」 もう一つはミチルに 「でも、私たちが教えてあげます…色々な事を…」 最後の光はムツキへと 「さあ、おいで。ティールちゃん、ファロンちゃん」 二人に手を伸ばすユキ 「え…あ…う…」 「そう。あなた達の名前」 右腕の無い方に向かって 「貴方がティールちゃん」 足の無い方に向かって 「貴方がファロンちゃん」 二人は差し伸べられた手をしっかりと握り 「えう…ちーる…?」 「…はろん…?」 答えてくれた 「これから二人に、色々なことを教えてあげるのだ」 「だから。もうちょっとだけ頑張りましょ」 三人の呼びかけに、二人は顔を見合わせた後 「「…うん!」」 力強く、満面の笑みを浮かべて答えてくれた それと同時に、暗闇に一つの光が現れ、辺りを強烈に照らし始めた 「うーっ、大丈夫かなぁ…」 夜、二人の修理は無事終わり、あとはセットアップをするだけとなった 「センパイ、落ち着いてください」 「…そう…ですよ…診断も…異常なし…なのです…から…」 「そうだな、よし!起動するぞ…」 キーボードを叩き、起動プログラムを実行する 最後に本体の診断プログラムが作動し、チェックを行う 『各部問題無し。これより、セットアップを実行します。貴方がオーナーですか』 「ああ、俺が君たちのオーナーだ。名前は香田瀬健四郎」 『了解しました。それで、オーナーの事は…』 ホっと一安心 「パパと呼ばせて戴きます」 「親父と呼ばせて戴きます」 …はい? 「ちょっと待て!ここは「何とお呼びすれば宜しいのですか?」じゃないのか!?」 そんな俺の言うことは無視して目を閉じる二人 そして再び開いたとき、生気の籠もった目で俺を見つめ 「この度、私をお買いあげ戴き有り難う御座います、私は寅型MMSのティールと申します。これからよろしくお願い致します」 「よっ!あたいを買ってくれてサンキュ!あたいは丑…まぁ見りゃ分かるか。名前はファロンってんだ。ヨロシクな!」 ぽかーん 呆気にとられる一同 「…おかしいですね、デバック時に名前で呼んでも、セットアップ時には忘れているはずなのですが…?」 どうにか正気に戻った花乃ちゃんが言った 「なんで、名前知ってるんだ…?」 「え…そういえば、まだ名前付けて戴いてませんでしたよね…?」 自分の発言に驚くティール 「まぁいいじゃん、細かい事は。んじゃ変える?」 笑いながら答えるファロン 「いや、その名前で良いんだが…」 「ほっ…良かったです。なんかこの名前、とても大切な気がしたので」 「だな。あーは言ったが、実際変えるって言われたらどうしようかと思ったよ」 「大切?」 「ええ。とっても大切な名前です。私たち、夢を見てのです」 「夢?」 不思議に思って訪ねてみる 「…突然まばゆい光に包まれたかと思ったら、深い闇に飲まれそうになって、手をのばそうと思ったら右手が無くて、隣でもがいてるファロンも両足が無くて、だんだん意識が遠のいていったのです」 これってまさか… 「そしたらさ、あたい達を闇から救ってくれたおっきな手があったんだ。とても大きくて、とても暖かい手が」 「その後に現れた光が、私達に名前をつけてくれたのです…そんな夢」 この子達…覚えてるのか? 起動して無くても、自分の身に起こった事を… 俺は二人にそっと手を添え、こう言った 「これからヨロシクな」 「はい…この手…暖かい…」 「ああ…この手だ。あたい達を助けてくれたのは…」 俺は泣いていた いや、みんな泣いていた よかった… この子達を助けられてよかった…
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SHINKI/NEAR TO YOU Phase02-7 大会が終わり、アミューズメントフロアでは後片付けにスタッフ神姫たちが飛び交う。 ゲーム筐体には<メンテナンス中。ご迷惑おかけします>の表示。すでに夕方、会場を訪れていた観客たちも次々に帰っていく。 シュンは一足先に会場を去り、一階の喫茶店で休んでいた。 本当は優勝者としてインタビューなんかもあったのだが、面倒なのでそういうのは全部伊吹たちに任せてきた。 あのコンビはマスター・神姫揃ってノリがいいから別に問題ないだろう。今度配信される神姫センターの公式ウェブマガジン「武装神姫ジャーナルMAYANO」では、きっと悪ノリした二人がデカデカと載ることになるに違いない。 ウェイトレス神姫が運んできた紅茶を飲みながら、シュンは向かいの席に目を向ける。 そちらではワンピースの上に白衣をまとった妹の由宇が、机に広げたタブレット端末を熱心に操作している。端末の先にはクレイドルが繋がれ、そこに腰掛けているのは当然ゼリスだ。 由宇は嬉々として操作を終えると、ツインテールを揺らしながら顔を上げる。 「うん、ゼリスも武装もどっちも問題なし! お疲れ様♪」 ゼリスは「ユウ、感謝するのは私の方です」と頭を下げる。ゼリスの言うように、オーラシオン武装と由宇の調整がなかったら、優勝するのは難しかっただろう。その意味で彼女は今日の最大の功労者と言ってよかった。 「ありがとな、ユウ。優勝できたのはお前のお陰だよ。奢ってやるから好きなもん頼んでいいぞ?」 「ホント!? じゃあ、ムルメルティアの無限軌道ロールケーキセットね! やったー、これ前から一度食べてみたかったんだぁ♪」 ころころ笑みながら、由宇は早速近くのウェイトレス神姫を呼び止めている。……全く、こういうところは年相応に可愛らしいんだけどなあ。 「……ふふん、そういうことなら私も何か奢ってもらおうかしら?」 「わわっ、伊吹!? いつの間にいたんだ?」 「やっとインタビューが終わってね、ついさっきよ。もう~夏大会に向けての抱負とか、シュッちゃんとの関係とかいろいろ聞かれてねー。長くなりそうだから途中で抜け出してきちゃった。ワカナも疲れて眠っちゃったしね」 上着のポケットでスヤスヤ寝息を立てるワカナを、伊吹は愛おしそうに撫でている。いや、途中で抜け出したって……それって終わったって言わないだろう。 呆れるシュンに対し、伊吹は「まあ、人気者の特権みたいなもんよ」と気にせずケラケラと笑っている。 「でも、今日はシュッちゃんに奢ってもらわなくてもいいわよ」 えっ、とシュンが顔を上げる。そこでは伊吹と由宇、ふたりがやさしく微笑んでいた。 「簡単な話です。今日一番の功労者はシュン、あなただからですよ」 ゼリスまで当然といった顔でシュンを見上げる。 いや、でもどちらかと言うと僕は足を引っ張ってばかりだったはず。そもそも試合で一番活躍していたのは伊吹とワカナだった訳で…… 「な~に言ってるのよ。決勝戦を勝てたのは、シュっちゃんの作戦があったからでしょう?」 「……偶然だよ。たまたまうまくいっただけで、みんなのフォローがなかったら成功しなかったって」 伊吹にそう言われても、シュンとしては今回の大会は反省することばかりだったのだ。 作戦にしたってシュンはアルミフォイルを〝チャフ〟にするアイデアを思いついただけで、成功したのは伊吹とワカナによる陽動や、ゼリスの判断が的確だったからだ。シュン一人で成し遂げたものではない。 シュンがウジウジと悩んでいると、不意にゼリスが彼の頭に飛び乗る。かと思うと―― 「――っ!? いってー!」 額に強烈なデコピンが炸裂した。 「いつまで悩んでいるのですか? もっと堂々としていればいいのです」 痛みを堪えつつ目を開けると、エメラルドの瞳と目が合った。 「……何もかもひとりでやろうとする必要はないでしょう? 仲間同士で助け合い、長所を合わせ短所を補い合った方が効率的というものです」 ゼリスらしい単刀直入な理攻めだった。まあ、確かにその通り。 「それから――」とゼリスは続ける。 「それは神姫とマスターも同じです。足りない部分があったらお互いに補っていけばいいのですよ。少なくとも――」 ゼリスの小さなささやき――それが、突然の闖入者に遮られた。 「ちゃーっす。兄ちゃんたち、ここにおったんやな~!」 「姐御も一緒か。こりゃちょうどええな!」 「あなたたち、どーしたのよ?」 唐突に現れた金町兄弟は、口の端をニッとそっくり同じ角度で持ち上げる。 「帰る前にアイサツしとこう思うてたんや。……今日はありがとうな、負けたけど久しぶりに楽しい試合やったで」 晴れ晴れとした笑顔の兄、笑太。 「前の街は退屈やったけど、これからは姐御を目標に頑張ることにしたんや。よろしくな~」 同じく笑みを浮かべる弟、福太。ふたりとも負けた悔しさを感じさせない、さっぱりした態度だった。 そんな双子の屈託のない笑顔に、伊吹も自然と顔がほころぶ。 「ふふん、挑戦ならいつでも歓迎するわ。また楽しいバトルをしましょうね?」 もちろん、と双子は嬉しそうに返事をする。 「せやけど、お兄さんの作戦には負けたわ。あんな方法でオレらのコンビネーションを破られるとはなあ、仰天したで!」 「シュン兄ちゃんも、今度はシングルバトルで勝負しようや!」 ふたりのキラキラした眼差しに、なんだかシュンまで嬉しくなってきた。 「ああ! また一緒に試合しような」 シュンの返事に満足そうに頷くと「じゃあ、また会いまひょ~」と言いながら金町兄弟は帰って行った。 去り際に「次は負けへんからな」と啖呵をきるアテナとそれを抑えるリアナを見送りながら、ゼリスもどこか嬉しそうだ。 「さて……あたしたちもそろそろ帰りましょうか?」 「えぇ? このケーキ食べ終わるまで待ってよー」 見送りが終わって伊吹がそう切り出すと、一緒にニコニコしていた由宇がとたんに慌て出す。 「……ユウちゃん、半分手伝ってあげよっか?」とチェシャ猫のように笑う伊吹。 「だめー」と皿を持つユウの手を、いつの間にかテーブルに戻ったゼリスがつつく。「私が手伝ってもいいですよ?」 ギャーギャーと姦しく騒ぐ三人を眺めながら、シュンは思う。 さっきゼリスが呟いた言葉。シュンにはしっかりと届いていた。 (少なくとも――私はシュンのことを必要だと思っていますよ) なんのことはない。シュンの悩みなど、ゼリスはとっくに気づいていた訳だ。 その上でスタンドプレーにも走らずに、彼女はバトル中ずっとシュンの指示に従って動いていた。 ――シュンのことを信頼してくれていたから。必要だと思っていてくれるから。 ゼリスは、それをずっと行動で示していた。 ならばこれからは、シュンも行動で示していけばいい。 (自分に何ができるか――じゃない。ゼリスのためにできることをやるんだ!) ゼリスがシュンのことを必要だと思ってくれるなら、シュンはゼリスのために今の自分ができることを見つけていこう。 神姫がマスターを信じて戦い、マスターは神姫のために最大限のバックアップを行う。 もとより神姫バトルとは、そういうものなのだから――。 かくして少年と彼の神姫は、新たな一歩を踏み出し始める。 今は小さな波紋に過ぎないそれが、この摩耶野市に集う神姫とマスターを巻き込んで、より大きな波紋となって疾走してことになることを、彼らはまだ知らない。 ……To be continued Next Phase. ▲BACK///NEXT▼ 戻る
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槙縞ランキング上位を意味する「ナイン」。その中で9位に位置するストラーフ「ジルベノウ」 は、最強厨全開の重装甲+過剰な大火力、高機動で、本人の資質とは無関係の、所謂「装備勝ち」だけでこの順位を保つ、ある意味究極の非公式武装主義者である その品性、戦闘スタイル(機動性に任せて飛びまくって、装甲に任せて耐えまくって、火力に任せて射ちまくるだけ)から、槙縞ランキングがレベルの低い大会と思われ勝ちな所以でもあるが、彼女を除く上位八名はいずれもセカンド級の化物が居並ぶ為、彼女の、言い方は悪いが「実の無い」力では此処迄が限界だったと言える その彼女の順位が、今一人の挑戦者によって危うくなっていた 「Black God Aftermath」 『くっそぅ!!これでも喰らえっ!!!』 どう見てもそれ程の装弾数があるとは思えない右肩のミサイルポッドから無数のマイクロミサイルを放出する「ジルベノウ」。飽和射撃で相手の視界を遮り、その間に水平移動して左右二択のキャノン攻撃を迫るのが、彼女の本来の戦術である 装甲と積載量に余裕のある装備である為、冷静にやれば並大抵の相手に負ける事は無い。実際、彼女は華墨に一度も敗北した事が無かった・・・というよりも、紅緒の最もと迄は言わない迄も、相当に苦手なタイプである事は確かである 切れ味は良くても、規格外の装甲相手には無力な日本刀、速射性能に欠ける火縄銃、威力はあっても小回りの効かない十字薙刀・・・いずれもジルベノウの装甲、機動性の敵ではなく、ましてや紅緒の装甲だけではジルベノウの火力に耐え抜く事は非常に難しかった(注1) その砲撃が・・・である (凌がれている・・・悉く・・・) マスター、阿部川ちる(注2)は恐怖していた 戦力で言えばあの華墨とそう変わらないか、少し強い程度に考えていたが、攻撃が全く当たらない上に、当たった筈の砲撃が何故か効果を挙げていない (以前にも・・・似た様な事があった様な・・・) 無謀にも「クイントス」に挑んだ時の「砲弾斬り」の記憶が蘇る・・・とは言え、あの技は軽量で取り回しの良い日本刀だから出来た技であって、決して薙刀・・・それも、武装神姫の身長の約1.2倍以上はあろうかという非常に大振りな代物だ・・・でこなせるような技ではない 事実、「ジルベノウ」の前に立つ神姫・・・紅緒タイプ・・・は音速剣を使っている様子は無かった。ソニックブームは発生していないし、時折着弾の衝撃で吹き飛ばされてさえいる にも関わらず、目の前の紅緒は全くの無傷だ。華墨の、どこか真面目というか、堅さのある表情ではなく、吹き飛ばされる際には不謹慎な喜悦すら読み取れる (どうにも・・・) 「ホークウインド」を瞬殺した(注3)という噂は本当の様ね・・・と口に出しかけたちるの目が驚愕に大きく見開かれた 『温いぞ・・・牝餓鬼!この程度の実力しかもって居らぬのか?』 明らかに人間の目で追える速さで動いた対戦相手の薙刀が、砲弾を事も無げに切り裂いたのだ 『・・・ば・・・っ・・・!』 『ほう?一応悔しがる程度の脳は持っておるようだの?』 にまり・・・と、人の悪い笑みを浮かべて、狐面の様に目を細める紅緒。薙刀の刀身を、蛇の様な舌で舐めて見せる 『ばっ・・・!!』 「駄目!!ジル!!!!」 『バカにしてええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッ!!!!』 ジルベノウの最大の弱点がこれであった 高レベルの装備を使いこなすだけの精神が、彼女にはまだ育っていない 『莫迦であろ?』 リニアライフルという触れ込みの、右手の銃を乱射しながら、左手の光剣を起動させる「ジルベノウ」。強烈なイオン臭が、ヴァーチャルの空気を焦がす 「仁竜」や「ストリクス」に匹敵する重量級のボディが、有り得ない速度で疾駆する。その様はまるでドラッグレーサー・・・異形の車両を無理矢理加速する感覚だ ごうっ!! ちるの父拘りの、光剣が空を切る独特の音が響いた だが、地面には紅緒の首も胴も転がっては居ない 『やはり莫迦であろ?お主』 「ジルベノウ」の半分以下の直径しか持たない細腕が、振り切る直前の「ジルベノウ」の左肘にかかり、完全に攻撃を止めている 『な・・・んで・・・!?』 にたり・・・と歯を見せて笑う紅緒。犬歯が発達した、大きな口は、本来のタイプを見失わせる程の凶悪さを秘めている 「逃げてぇッ!!」 「ジルベノウ」の左腋に、薙刀が突き刺さる(注4)。その顔が苦痛に歪むより迅く、踏み込みながら引き抜かれた脇差が左肘の関節を封じ、そのまま出足が止まらずに、「ジルベノウ」の脚を刈る 『ぐぅッ!!』 重装甲が倒れた際の重い衝撃を背中に受けながら「ジルベノウ」が倒れる 『ふはっ・・・!!』 喜悦に歪んだ紅緒の左手にサイドボード転送の輝き・・・1秒程でダイヤ型の穂先を持つ2sm程の短槍が出現する 『がああぁぁっ!!』 槍を思い切り「ジルベノウ」の右肩に突き立て、自身は左腰の飾太刀をぬるりと引き抜く 『はっはっはっ!!良き悲鳴!苦しう無いぞ!!』 再び左手に転送光・・・鬼面が鍔にあしらわれた禍々しい大剣が転送される 『死ぬが良い』 二つの刀身でジルベノウの首を挟みこみ、そのまま鈍い音を立てながら引き裂く 「いやああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」 敗北表示の後ろでジルベノウの首を高々と掲げる紅緒の姿を、ちるは直視する事が出来なかった 「上機嫌だな・・・斬黒(ざくろ)」 恰幅の良いスキンヘッドの大男が、重々しく自身の神姫を迎える 「当然であろ?あるじ(主人)。二日で12も勝ち星を挙げて、不機嫌になれという方が難しいというものぢゃ!」 「そうだな・・・だが俺とてそういつも暇な訳では無い。明日からはまた仕事だ・・・一人で待てるか?」 「うむ、待つぞ?あるじが一仕事終える迄に、ここのランキングを制覇しておいてやろう」 そう言って歯を見せて笑う紅緒・・・斬黒・・・に対して、獰猛な笑みだけで答え、男は皆川 彰人に横柄に声を掛ける 「おい店主!俺が居ない間にも、萩原厳十郎と『斬黒』名義でここのランキングに挑戦出来るよう便宜を図っておいて貰おう」 言いながら、黒光りするクレジットカードとセカンドランカーを表すワールドパスを放り投げるのだった 剣は紅い花の誇り 前へ 次へ? 注1.とは言え、槙縞ランキングにはそもそも今迄華墨以外の紅緒など居もしなかったのだが 注2.名前、今迄無かったね。性格はジルと殆ど同じ。生意気そうなツインテールのメスガキw 注3.この時点で、「ウインダム」は「リフォー」と二位を争い、4位「ズィータ」、5位「ストリクス」、6位「タスラム」、7位「仁竜」、8位「ニビル」、9位「ジルベノウ」。である 注4.語呂から今迄薙刀と書いてきたが、本来は刺突にも向いた尖った切先を持つ、西洋の「グレイブ」という武器を意識している
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左腕と左脚、左の乳房のみを「サイフォス」ベースの装甲で覆った姿でエルギールはヴァーチャルスペースに現れた 金管楽器の様な凄まじく派手な銀色の装甲は、今回のフィールドである湖畔の風景を見事に天地逆さまに写している 『随分軽装だな?まぁホントの白兵戦になりゃぁ神姫用の武器は「避けられない」方がヤバいって言うし、ある意味ありっちゃありか?でも所詮そんだけだろ?ビシッとキメてやろうぜ!華墨』 (確かに軽装だ・・・が・・・・) 武士の台詞を華墨は半分聞き流している ここ数回のバトルで、華墨は少しずつではあるが自らのデフォルト武装の取捨選択を始めていた 初戦の教訓と「どうせ相手に密着するのだから」という事で、十字戟もメインボードから外し、主力武装は腰の大小に、やや肩周りの可動を阻害する肩当を捨て、ジョイントを介して「垂れ」の部分だけを直接装備、鬼面と喉当ても外していた 最後の二つは今回のバトルに際して急遽実行したのだが、それというのもポッドに入る前にちらりと、エルギールの主力武装とおぼしきものを目にしたからだ それは剣呑な黒い刀身に、禍々しい朱い模様がうねうねと描かれた、非常に大振りなダガーだった(殆どショートソードと言っても良かったかも知れない) 神姫が外出する時に、手持ちの得物の中から携行に便利な物を選んで持ち歩くというのは聞いた事があるが、華墨には何故だか判らないがそれが「護身用の武器では無い」という強迫観念めいた確信があった それで、視界と装甲の二択に(勝手に)迫られて、結果折衷案で、「兜は残して仮面は外す」という結論に至った訳だ いずれにしても、未だに胸の奥をざわざわと撫でられる様な感覚はおさまらず、目の前の軽装な姿を、武士程楽観視出来無いのだった 第伍幕 「Merciless Cult」 自分と相手の戦力差がどの程度なのか?正確に把握するには結局ぶつかってみるのが一番良い。華墨は覚悟を決めた ざくざくいう足音と共に、バーチャルの下生えが踏み潰されてゆく。(いける、いつもの私だ)ポニーテールを地面に水平になるくらい迄浮かせながら華墨は走る。右手で太刀を抜き放ち、気合一閃、一気にエルギールに斬りかかる! 白刃が虚空に白い影を描き、華墨の天地は逆転する。遅れて知覚される苦痛 「ハン!速さと装甲にモノ言わせて真っ直ぐ突っ込んで殴るだけの、単なるゴリ押しじゃない!?案の定大した事無いわね?」 (なんだ!?何をされたんだ?今!?) 地面を抉る程に叩き付けられた華墨だったが、即座に立ち上がり、エルギールから距離をとる 「どうしたの?躓きでもしたのかしら?ホント情っさけ無いわね」 憎まれ口を叩くエルギール。その手に武器らしきものは握られていない。華墨が警戒していた短剣も、まだヒップホルスターの中だ 「・・・」 「つば」を鳴らして太刀を構え直す。いつもの様に、加速をつける為の攻撃型ではなく、切っ先を相手に向けた防御よりの型だ 「・・・アタシってそんな気が長い方じゃ無いのよね・・・来ないんなら」 ヒップホルスターから短剣を抜き放つエルギール。一瞬、朱色の模様が生物の様にうねった・・・様に感じた 「こっちからブン投げてやるまでよォ!!」 「!!」 明らかに短剣が届く間合いではなかった、が、エルギールの剣は鋼線で接続されたいくつかの節に別れ、異様な動きでもって華墨の左腕に巻き付いたのだ。食い込んだ刃が、華墨の人工皮膚を・・・裂く 「くそっ!!」 鋼鉄の毒蛇に腕を拘束されたまま切り込む華墨。だが、引き手を殺されたへたれた斬撃は、あっさりとエルギールの腕甲でいなされ、挙句そのまま首を掴まれる (・・・ぐっ!) くぐもった呻きが漏れる。それは人間的な条件反射だが、神姫が「人がましく」振舞う為に動きの基礎に組み込まれている 「けだものを捕らえるには罠を使うでしょう?アタシはその罠。さぁ、ホントのアタシのフルコンボってやつを見せたげるわ!!」 首を掴んだ左手が捻られる、同時に右足が払われ、左腕の拘束を引き外す動きでそのまま吊り上げられる (これが・・・!?) 「まずは天(転)」 異様な体勢で転ばされ、なんとか残った右腕で受身を試みる 「間に人(刃)」 ぞぶりだかどすだかいう様な汁っぽい音と共に、引き抜かれ空を舞っていた刃が右腕に突き刺さる たまらず、そのまま顔面から地に倒れ付す華墨。打撃系の衝撃が、装甲ごしにでも強烈なダメージを全身に及ぼした 「最期は地に血の花を咲かせて逝きなさいな!アンタの名前に相応しい幕切れじゃない!!」 エルギールの哄笑、無理矢理体を起こそうとする華墨だが、最早戦闘能力が無きに等しいのはいかなる目で見ても明白だ (立ち上がる・・・ちから・・・) 武士が何かを叫んでいた、残念ながら華墨には何を言っているのか全く判らなかったが・・・ (ここで立ち上がる・・・ちからが・・・) だが、そんな力は華墨の中には無かった。愛も、怒りも、不屈の意思も、未だ華墨は本当の意味で理解など出来て居なかった 虚ろに過ぎるジャッジのマシンボイスを、ヴァーチャルスペースに全く意識があるままに、華墨は聞いていた 「華墨・・・負けちまったのか・・・?」 武士は腰を浮かせて、呆然とディスプレイを見ていた その肩に琥珀の小さな、冷たい手が掛かる迄、武士は彼女が入ってきた事にすら気付いていなかった 「ね、判った?闘うってこういう事なんだよ。体はヴァーチャルでも、彼女らが感じる恐怖は本物なんだ。」 小さな、だがはっきりした声だった 「だって・・・武装神姫って、バトルする為に創られたんだろ?」 のろのろと首を回す武士。琥珀の、多分名前の由来なのだろう琥珀色の瞳は、感情を深い所に隠していて、思考を読み取る事は今の武士には不可能だった 「確かに彼女達は闘う為に創られた。でもね、闘争本能を持たされていても、彼女達が本当に闘いを望んでいるかどうかは判らないんじゃないかな?」 「・・・え?」 「判らない?君は彼女のマスターだけど彼女は本当の意味で『君の神姫』になっているのかな?」 「当たり前だ!神姫は登録した人間をマスターとする様に出来てるんだろ?」 語気を強める武士、だが琥珀の口調にも表情にも、僅かな変化も見られなかった 「プログラムされた知性、プログラムされた感情、なら、忠誠心だってプログラムされたものなんだろうね」 「・・・」 にこりともしない、が、別に怒りも悲嘆も、いかなる色も彼女の表情には現れないのではないかと、武士は思った 「・・・」 「プシュ」と空気の抜ける様な音がして、華墨のバトルポッドが開く ゆっくり顔を上げる華墨に一瞬目をやってから踵を返す琥珀 「じゃ、するべき事はしたから・・・縁があったらまたね・・・」 視線だけ二人に向けて言い放つと、もうそのまま、むにむにと柔らかい足音だけ残して琥珀は去っていった 「・・・負けてしまったよ・・・マスター・・・」 「・・・あぁ・・・」 ここで取って付けた様な労いの言葉を吐く事が出来るのか?吐く資格があるのか?労ってやるべき存在?神姫は・・・? 玩具にそれをするのか?人間にそれをしないのか? 「・・・無事でよかったよ」 武士は恐ろしくばらばらな表情でようやくそれだけ吐くと、華墨を抱え上げポケットに入れ、無言でブースから出るのだった 「見事な『壁』役だったね」 「僕は厭だよ。本当はこんな役なんて」 「買って出た苦労だろう?私は何も頼んじゃいない」 「・・・・・」 「・・・君にとってはどうなんだい?」 「何がさ?」 「神姫とは高性能な知性を持った玩具なのか・・・?身長15センチの人間なのか・・・?君が佐鳴武士に叩き付けた問いについて・・・だよ」 「・・・そういう話は川原さんとでもしてなよ。帰ろうか?エルギール」 主よりも遥かに派手な神姫を肩に乗せて去る少女を見ながら、皆川はいかにも意味ありげに不気味に微笑んで見せるのだった 剣は紅い花の誇り 前へ 次へ
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概要アビリティ レールアクショントリムルティ 武装一覧通常武装(DLC以外)通常武装 防具付属装備 DLC一覧通常武装 防具付属装備 概要 射程こそ短いが、射撃武器の中では隙・硬直とも短く扱いやすい銃。 牽制、RA潰し、ランチャーやバズーカの硬直短縮と様々な事にも使う事ができる。 ただ、今作では最速で連射してもギリギリコンボにつながっているわけではないため、連射して命中させても途中でガードやターンをはさまれることもある。 対戦においてはたとえ一発目をヒットさせても連射の合間に急上昇されてしまい、実質一発分しか当たらないという欠点を持つ。 また弾速、ホーミング性能など、連射性能と硬直以外の全てにおいてライフルに劣るため、射撃武器のメインとしては力不足。 単発威力が低めなこと、上記の当てても次に繋がらないこと、NPC戦では遮蔽物を駆使した手動リロードや、粒子ブラスターの有用性の高さもあり、 主力ではなくあくまで補助・サブ武器として考えよう。 アビリティ プラスアビリティで装填数が増加する。 手動リロードのタイミングをずらせるので、可能なら意識的に付けておきたいところ。 とはいえあくまで補助、けん制ということを考えると他を犠牲にしてまでつけるほどでもないというのが悩みどころかも。 レールアクション 牽制に一発発射した後、相手の後ろに回りこんで7連射する。 移動中に×ボタンを押すことで再度ロックオンジャミングを仕掛けつつ移動する。この場合は5連射。派生タイミングは2回あるため、これを使い分けることで3種類の軌道を描くことができる。 全弾にブースト削りの効果があり、5発ヒットするとブーストゲージが空になる。 敵NPCが使ってもそれほど強力ではなく、すぐに切り返せるようになるためあまり良いイメージの無いレールアクションだが、相手のライフルやランチャーを見てレールアクションを始動、構えの屈みこみで弾を回避したり、ショットガードできるようになると非常に強力。 牽制による射撃は高確率で命中し、回り込み後の連射は回避困難、一気にダメージとブーストゲージを奪う事ができる。 ただし、ハンドガンの弾速の関係上、しっかりと距離とタイミングを見極めなければ慣性移動などで避けられてしまうことも。 一番の狙い目は相手の真下からの発動。主に近接戦闘を嫌った相手の急上昇による回避直後あたりか。 相手からすれば足元で発動されるRAは見えづらい関係上ジャミングガードを仕込みづらく、 その後の再度ロックも急上昇が仇となり視界に捉えづらいため困難。 さらに×派生まで使うと相手からすれば厄介極まりない代物となる。 また、前述のブースト削りのおかげで、被弾後の相手はダッシュと急上昇による回避も出来なくなるため、うまく命中させることが出来ればさらなる追撃も容易に狙える。 ダブルレールアクションにはブースト削りはないが、前半のハンドガンの連射は同じ場所に留まる時間が短く妨害されにくい。 〆のランチャーの命中はあまり望めないが使いやすいので使用を検討しても良いだろう。 トリムルティ リアパーツのトリムルティを装着する事で装備可能。 ツインハンドガンと言う特殊なハンドガンで、両腕をクロスし、腰に付けた銃より弾を発射する。 弾消費1で両腰から同時に発射されるが、威力は別に倍増したりはしていない。 Hit数が2になっており、当たり判定も横に(極僅かだが)広い。 Hit数の関係上、相手のガードに対するダメージは大きくなっている。 しかしアビリティがグライディングとLp+しかなく、SPDなどの各種基礎ステータスも低い。 SPDや機動力関連アビリティの宝庫であるリアパーツを埋めてしまう欠点がある。 一応ランク7に+CLがあるため、戦えない性能ではない。グライディング+2は人によっては重宝するアビリティだろう。 リロードモーションが通常のハンドガンと異なる(ビットのものの早回しになる)が、隙の大きさは他のハンドガンと変わらない。 また、この装備でRAハンドガン及びRAハンドガン、ランチャーを使うと、各種発射モーションと弾速が高速化する(弾速、連射速度共に1.5倍~2倍速といっていいほど)。 ハンドガン、ランチャーのRAは前半部分の2連射×4が全て連続ヒットになるのは大きな利点。 慣れない相手からしてみればあまりの速さに戸惑うことだろう。 武装一覧 通常武装(DLC以外) 通常武装 ランク 名称 タイプ ATK COST 火器 光学 クリティカル 攻撃範囲 攻撃回数 アビリティ 入手方法 装備神姫・備考 1 FB アルファ・ピストル ノーマル 20 7 5% 0% 5% 230 12 近距離攻撃+1ランチャー+1 オフィシャル フォートブラッグ BKピストル ノーマル 45 16 0% 0% 7% 230 12 近距離攻撃+1ランチャー+1 オフィシャル ゼルノグラード 2 アルヴォPDW11 ノーマル 186 60 0% 7% 5% 230 7 近距離攻撃+1ランチャー+1 オフィシャル アーンヴァルMk.2 EVFガン ノーマル 196 64 10% 0% 5% 230 12 近距離攻撃+1ランチャー+1 オフィシャル エストリル モデルPHCヴズルイフ ノーマル 244 74 0% 0% 7% 230 12 近距離攻撃+1ランチャー+1 オフィシャル ストラーフ 3 アルヴォLP4ハンドガン ノーマル 291 85 0% 0% 7% 230 12 近距離攻撃+1ランチャー+1 オフィシャル アーンヴァル EVFガン+AS ノーマル 337 111 14% 0% 5% 230 12 近接攻撃+1ハンドガン+1ランチャー+1 立花茂(クリア後ヴァルハラ)[奪] エストリル BKピストル+IR ピーキースピード 349 83 0% 0% 22% 230 12 ロック範囲-1SP+1 ジャンク左藤楓(ヴァルハラ)[奪] ゼルノグラードショップ入荷の可能性がF1予選武器属性タッグのみ OS-35 Aライフル ノーマル 389 105 0% 0% 7% 230 12 近接攻撃+1ランチャー+1 オフィシャル アーク FB アルファ・ピストル+ms ノーマル 392 109 13% 0% 5% 230 12 近接攻撃+1ランチャー+1 タッグマッチ狙撃スター5[賞] フォートブラッグ 4 OS-36 Aカービン ノーマル 444 111 0% 0% 7% 230 12 ランチャー+1 オフィシャル イーダ EVFガン+LB ノーマル 476 120 18% 0% 5% 230 12 ランチャー+1 エストリル モデルPHCヴズルイフ+SK ノーマル 521 122 0% 0% 7% 230 12 ランチャー+1 プレミアム ストラーフ 5 アルヴォPDW11+LB ノーマル 593 132 0% 18% 5% 230 7 ランチャー+1 ケンプ(クリア後ヴァルハラ)[奪] アーンヴァルMk.2 アルヴォPDW11+SK ノーマル 596 131 0% 16% 5% 230 7 ランチャー+1 プレミアム アーンヴァルMk.2 FB アルファ・ピストル+SK ノーマル 597 132 21% 0% 5% 230 12 ランチャー+1 プレミアム フォートブラッグ アルヴォLP4ハンドガン+LB ノーマル 640 132 0% 0% 7% 230 12 ランチャー+1 ういろー(クリア後ヴァルハラ)[奪] アーンヴァル OS-35 Aライフル+LB ノーマル 641 132 0% 0% 7% 230 12 ランチャー+1 嶋渓フミカ(クリア後ヴァルハラ)[奪] アーク モデルPHCヴズルイフ+LB ノーマル 649 133 0% 0% 7% 230 12 ランチャー+1 音黒野美子(クリア後ヴァルハラ)[奪] ストラーフ OS-36 Aカービン+LB ノーマル 655 133 0% 0% 7% 230 12 ランチャー+1 偉吹玲人(クリア後ヴァルハラ)[奪] イーダ アルヴォPDW11+GR ピーキー 664 119 0% 20% 20% 230 7 ロック範囲-1SP+1 陰陽熊(クリア後ヴァルハラ)[奪] アーンヴァルMk.2 アルヴォLP4ハンドガン+GR ピーキースピード 730 118 0% 0% 22% 230 12 ロック範囲-2DEX-1SP+2 音黒野美子(クリア後ヴァルハラ)[奪] アーンヴァル 6 EVFガン+NS ノーマル 686 136 30% 0% 5% 230 12 ランチャー+1 エストリル ジーラヴズルイフ+TK ノーマル 837 162 0% 0% 5% 230 12 ランチャー+1 ストラーフMk2 7 アルヴォPDW11+NS ノーマル 887 185 0% 22% 5% 230 7 ランチャー+1 アーンヴァルMk.2専用RA『一刀両断・白EX』に必要 BKピストル+NS ノーマル 952 184 0% 0% 20% 230 12 ランチャー+1 ゼルノグラード アルヴォLP4ハンドガン+VC ノーマル 959 185 0% 0% 5% 230 12 ランチャー+1 アーンヴァル OS-35 Aライフル+VC ノーマル 962 185 0% 0% 5% 230 12 ランチャー+1 アーク モデルPHCヴズルイフ+NS ノーマル 974 188 0% 0% 5% 230 12 ランチャー+1 ストラーフ OS-36 Aカービン+NS ノーマル 980 189 0% 0% 5% 230 12 ランチャー+1 イーダ ジーラヴズルイフ ノーマル 996 192 0% 0% 5% 230 12 ランチャー+1 ストラーフMk2 ジーラヴズルイフ+KT ピーキー 998 167 0% 0% 20% 230 12 防御力-4SP+4 ハンドガン ランチャー杯[賞] ストラーフMk2 防具付属装備 ランク 名称 タイプ ATK COST 火器 光学 クリティカル 攻撃範囲 攻撃回数 アビリティ 入手方法 装備神姫・備考 1 トリムルティ ツイン 60 0 (12) 0% 0% 0% 230 12 - オフィシャル 2wayリアパーツ 2 トリムルティ+BK ツイン 150 0 (40) 0% 0% 0% 230 12 グライディング+1 2wayリアパーツ 3 - - - - - - - - - - - - 4 トリムルティ+GC ツイン 442 0 (92) 0% 0% 0% 230 12 グライディング+1LP+1 2wayリアパーツ 5 - - - - - - - - - - - - 6 - - - - - - - - - - - - 7 トリムルティ+CL ツイン 950 0 (214) 0% 0% 0% 230 12 グライディング+2LP+2 2wayリアパーツ DLC一覧 通常武装 ランク 名称 タイプ ATK COST 火器 光学 クリティカル 攻撃範囲 攻撃回数 アビリティ 入手方法 装備神姫・備考 1 パウダースプレイヤー ノーマル 77 27 5% 0% 5% 230 12 近距離攻撃+1ランチャー+1 オフィシャル ジュビジー ポーレンホーミング ノーマル 90 35 0% 5% 5% 230 7 近距離攻撃+1ドリル+1ランチャー+1 オフィシャル ジルダリア 2 レッドスプライト ノーマル 161 53 8% 0% 5% 230 12 近距離攻撃+1ランチャー+1 オフィシャル ラプティアス フェリスファング ノーマル 163 53 0% 0% 7% 230 12 近距離攻撃+1ランチャー+1 オフィシャル アーティル FB BSM ビームガン ノーマル 200 71 0% 0% 5% 230 12 遠距離攻撃+1ランチャー+1ミサイル+1 オフィシャル フィギュア購入特典武装神姫 フォートブラッグ ダスク 3 メルキオール ノーマル 280 85 12% 0% 5% 230 12 近距離攻撃+1ランチャー+1 オフィシャル ガブリーヌ D・イーグル ノーマル 303 88 0% 0% 7% 230 12 近距離攻撃+1ランチャー+1 オフィシャル パーティオ proto メルテュラーM7 ノーマル 330 94 0% 0% 7% 230 12 近距離攻撃+1ランチャー+1 オフィシャル ムルメルティア 4 ポーレンホーミング ノーマル 456 132 0% 17% 5% 230 7 ドリル+1ランチャー+1 プレミアム ジルダリア FB BSM ビームガン+CR ノーマル 474 131 0% 0% 5% 230 12 ランチャー+1ミサイル+1 プレミアム フィギュア購入特典武装神姫 フォートブラッグ ダスク 5 D・イーグル+SK ノーマル 603 129 0% 0% 7% 230 12 ランチャー+1 プレミアム パーティオ proto パウダースプレイヤー+MT ノーマル 560 129 21% 0% 5% 230 12 ランチャー+1 プレミアム ジュビジー アルヴォPDW11黒 ノーマル 593 132 0% 18% 5% 230 7 ランチャー+1 プレミアム アニメダウンロード特典(#1~#10)アーンヴァルMk2黒 メルテュラーM7+MT ノーマル 620 134 21% 0% 5% 230 12 ランチャー+1 プレミアム ムルメルティア レッドスプライト+SK ノーマル 621 133 20% 0% 5% 230 12 ランチャー+1 プレミアム ラプティアス フェリスファング+LB ノーマル 660 133 0% 0% 7% 230 12 ランチャー+1 プレミアム アーティル FB BSM ビームガン+MS ノーマル 666 151 0% 0% 5% 230 12 ランチャー+1ミサイル+1 プレミアム フィギュア購入特典武装神姫 フォートブラッグ ダスク メルテュラーM7+SK ノーマル 671 134 0% 0% 7% 230 12 ランチャー+1 プレミアム ムルメルティア 6 メルテュラーM7+SP ノーマル 764 164 24% 0% 5% 230 12 近距離攻撃+1ランチャー+1 プレミアム ムルメルティア FB BSM ビームガン+TK ノーマル 837 183 0% 0% 5% 230 12 ランチャー+1ミサイル+1 プレミアム フィギュア購入特典武装神姫 フォートブラッグ ダスク 7 メルテュラーM7+TK ノーマル 862 184 29% 0% 5% 230 12 ランチャー+1 プレミアム ムルメルティア パウダースプレイヤー+TK ノーマル 870 186 29% 0% 5% 230 12 ランチャー+1 プレミアム ジュビジー アルヴォPDW11黒+NS ノーマル 887 185 0% 22% 5% 230 7 ランチャー+1 プレミアム アニメダウンロード特典(#1~#10)アーンヴァルMk2黒専用RA『一刀両断・真EX』に必要 メルキオール+SK ノーマル 895 190 28% 0% 5% 230 12 ランチャー+1 オフィシャル ガブリーヌ ポーレンホーミング+TK ノーマル 903 215 0% 25% 5% 230 7 ドリル+1ランチャー+1 プレミアム ジルダリア レッドスプライト+NS ノーマル 922 193 24% 0% 5% 230 12 ランチャー+1 プレミアム ラプティアス D・イーグル+VC ノーマル 955 189 0% 0% 7% 230 12 近距離攻撃+1ランチャー+1 プレミアム パーティオ proto フェリスファング+SK ノーマル 980 194 0% 0% 7% 230 12 近距離攻撃+1ランチャー+1 プレミアム アーティル 防具付属装備 ランク 名称 タイプ ATK COST 火器 光学 クリティカル 攻撃範囲 攻撃回数 アビリティ 入手方法 装備神姫・備考 1 エキドナ ツイン 53 0 (21) 0% 0% 5% 230 12 溜め時間短縮+1DEX-1 オフィシャルショップ ガブリーヌ2wayリアパーツ 2 - - - - - - - - - - - - 3 - - - - - - - - - - - - 4 - - - - - - - - - - - - 5 エキドナ+GC ツイン 578 0 (142) 0% 0% 5% 230 12 溜め時間短縮+2グライディング+1DEX-1 プレミアム ガブリーヌ専用RA『ヘルクライム』に必要2wayリアパーツ 6 - - - - - - - - - - - - 7 エキドナ+SP ツイン 985 0 (245) 28% 0% 5% 230 12 溜め時間短縮+3グライディング+1DEX-1 プレミアム ガブリーヌ専用RA『ヘルクライムEX』に必要2wayリアパーツ
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ウサギのナミダ ACT 1-22 ◆ ギャラリーにはどう見えているだろうか。 おそらくは、力と技がぶつかり合う、真っ向勝負に見えているだろう。 確かに、雪華は正々堂々、真っ向勝負を挑んできた。 逃げない。揺らがない。 ミスティ得意のレンジに踏み込んでまで勝負を挑んでくる。 その姿勢を貫き、勝利を目指す。 それこそが『クイーン』の二つ名の由来であり、神姫プレイヤーから人気を集める理由だった。 だが、バトルの当事者は思い知る。 真っ向勝負? とんでもない。 劣勢とか、そう言うレベルじゃない。 『そこでリバーサル! 二連撃!!』 菜々子の指示が飛ぶ。 もう何度目かの得意技。 この間合い、このタイミング、この速度、そして身体をロールさせながら繰り出す二連撃。 熟達したアーンヴァルでも、このリバーサル・スクラッチはかわせない。 だが。 雪華は、これを紙一重でかわす。手にした剣で反撃すらしてみせる。 「くっ……!」 正々堂々? 真っ向勝負? 違う。 これは「練習」だ。 こっちの本気を練習台にしてしまう、圧倒的実力差。 ミスティは敵を見上げる。 空中に浮かび、羽を広げた雪華は、まるで降臨した大天使のようだ。 その美しい姿に、ミスティは戦慄した。 「本身は抜かないのかよ!?」 「あれは、そう簡単に抜けるもんじゃないのよ!」 虎実の叫びに、菜々子は応える。 虎実は、ミスティの攻撃が雪華に全く効いていないことを見抜いているようだ。 『本身を抜く』には、試合前からしっかり心構えをする必要がある。 バトル中に切り替えるような便利な使い方はできない。 それに、たとえ本身を抜いたところで、食い下がれるかどうか。 (……まさか、これほどとは) 菜々子は戦慄する。 正々堂々のバトルロンドで、こうもあしらわれるのは初めての経験だった。 どうすればこれほどの実力が身につくというのか。 だが、諦めるわけにはいかない。 せめて一矢報いなくてはならない。 『エトランゼ』の名に賭けて。 そして、遠野とティアにつながなくてはならない。 菜々子は絶望と戦いながらも、ミスティに矢継ぎ早に指示を出していく。 ■ 帰りの電車の中、わたしはずっと考えていた。 マスターのこと。 マスターがわたしを守るために、すべてを賭けてもいいと、言ってくれたのだという。 エルゴの店長さんがそう言っていた。 わたしには、マスターの想いが分からない。 わたしの過去が暴かれたせいで、あれほど酷い目に遭わされたというのに。 それでもなお、わたしを自分の神姫にするために、全力を尽くしてくれている。 マスターのその想いが伝わって、店長さんを動かし、刑事さんを動かし、風俗のお店がなくなって、多くの風俗の神姫が救われた。 それほどの大きな想いをわたしに向けてくれている。 なぜですか? なぜ、それほどまでに、わたしにこだわるんですか? わたしはそんな価値のある神姫ですか? わからない。 わかりません。 わたしにできることなんて、マスターのそばにいて、マスターの指示通りに走るこくらいなのに。 シャツの胸ポケットから、マスターを見上げる。 マスターは物思いに沈んでいるようだった。 この間までのつらそうな表情でないのは救いだったけれど。 わたしはマスターの心に寄り添えないままだった。 刑事さんはわたしに、素晴らしいマスターの神姫であることを忘れてはいけない、と言った。 それはもちろんなのだけれど。 そのマスターのために、わたしは何がしてあげられるんだろう……? □ 時間がないので、昼食は電車の中でパンをかじった。 一度アパートにとって返し、ティアの武装一式を手にして駅前に戻る。 ゲームセンターに着いた時には、久住さんの電話から、もう二時間以上が過ぎていた。 久々のゲームセンターの入り口。 俺は少し感傷的になる。 一歩を踏み出すのが少し怖い。 俺は店の出入りを拒否されているわけで、躊躇するのも分かって欲しいところだ。 久住さんはいるだろうか。 自動ドア越しだと、奥の様子は分からない。 彼女がいてくれないと、俺は針の筵なんだが。 それでも俺が足を進められたのは、今朝方の出来事があったからだろう。 すくなくとも、もう店に黒服の男たちが現れることはない。 自動ドアが開く。 まず俺の耳に聞こえてきたのは、神姫の怒声だった。 「なぜだっ!! なぜあんな淫乱神姫にばっかりこだわるんだ!?」 叫んでいるのはハウリン。 その声を受け流しているのは、銀髪のアーンヴァルのようだ。 「迷惑なエロ神姫なんかより、あたしの方がよっぽど強いのに!!」 「随分とご挨拶だな、ヘルハウンド」 俺が静かに言うと、武装神姫コーナーにいた全員が俺を見た。 「黒兎のマスター……」 ヘルハウンドは怒りの眼差しを俺に向けてきた。 憎悪すら込められていそうだった。 「……遠野くん!」 ギャラリーから抜け出して、久住さんが駆け寄ってきてくれた。 いつものようにジーパン姿のラフな格好。俺は安心したような、残念なような、複雑な気分になった。 「連絡ありがとう。……遅くなってごめん」 「ううん。来てくれてよかった」 いつもよりも微笑みが弱々しく見えるのは気のせいだろうか。 そのとき、ギャラリーの一角から、声があがった。 「おいっ! 黒兎のマスター!! ど、どの面下げてここにきたっ!!」 三強の一人、『ブラッディ・ワイバーン』のマスターがこちらを指さして喚いている。 俺にはそれほどショックはなかった。 こうした中傷は予想の範囲内だったので、心構えもできている。 と、いきなり久住さんがワイバーンのマスターを睨みつけた。 「わたしが呼んだのよ。文句ある?」 耳が凍傷になってしまいそうなほどに冷たい声。 ワイバーンのマスターはそれだけで、急に黙り込んでしまった。 ギャラリーも、何か言いたげな表情だが、黙ったままだ。 ……いったい、どうなっているんだろうか。 俺が驚きを隠せずにいると、久住さんの後ろから、さきほどの銀髪のアーンヴァルを肩に乗せた青年が近づいてきた。 「あなたが、ハイスピードバニー・ティアのマスターですね?」 人が良さそうに微笑む青年と、真剣な面もちの銀髪の神姫。 その後ろに、カメラ用のベストを着用した、年上の女性がいる。 「……遠野くん、彼らがティアを助けてくれたの」 「高村優斗です。こちらは僕の神姫で、雪華」 青年とその神姫は、礼儀正しく会釈した。 それから、後ろの人物を示し、 「それから、この人は、僕らの取材をしている、『バトルロンド・ダイジェスト』の三枝めぐみさん」 「よろしく~」 三枝さん、というその女性は、ひらひらと手を振った。 俺も挨拶する。 「遠野貴樹です。それと、俺の神姫のティア」 「は、はじめまして……」 「ティアを助けてもらって……助かりました。感謝してます」 もう一度俺はお辞儀をした。 顔を上げると、高村と名乗った青年は、ゆるやかに首を振っていた。 「いえ、大したことではありません。 僕たちも、対戦希望の相手を助けられてよかった」 やはり、そうか。 俺はその一言で確信する。 この青年と神姫は、海藤の家で見た映像の、彼らだ。 「まさか、あの『アーンヴァル・クイーン』がティアを助けてくれたとは、正直驚きです」 「僕たちも驚いていますよ。……ああ、僕たちのこと、もう知ってるんですね」 「……秋葉原のチャンプが俺たちと対戦を希望するなんて……冗談じゃなかったんですか」 「まさか。冗談であんなこと言ったりしません」 高村はそう言って微笑んだ。 やたらと人が良さそうな青年だと思う。 その高村の肩に座る、美貌の神姫が口を開いた。 「あなた方との対戦に、ここまで足を運ぶ価値がある、と考えてのことです。 バトルが所望です。いかがですか、『ハイスピードバニー』のマスター?」 長い銀髪を背に流した神姫の言葉は、威厳すら備わっているように感じられる。 なるほど、『クイーン』二つ名は伊達ではない、か。 俺は雪華の問いに、静かに答えた。答えは決まっていた。 「残念だが、お断りする」 ギャラリーがどよめいた。 全国大会レベル、しかも優勝候補とのバトルだ。対戦してみたいと思う方が普通だろう。 しかも、三強の対戦希望を断ってまで、俺たちとのバトルに集中しようとしているのだから、神姫プレイヤーなら受けて立つのが筋と言うものだ。 久住さんが俺の肩にそっと手をおいた。 「遠野くん、彼らはティアを助けてくれたのよ?」 「わかってる。でも、それとこれとは話が別だ」 その手を、俺は邪険にならないようにそっと、はずした。 そして、俺は雪華に向き直って言い切った。 「ティアを助けてくれたことには感謝してる……本当に、感謝してもしきれない。 でも、君たちとバトルはできない」 「なぜです? 理由を教えていただけますか?」 「……君たちがマスコミの取材を受けているからだ」 高村の背後にいた女性は、きょろきょろと辺りを見回すと。 「あ、あたし……!?」 三枝さんは、自分を指さして、びっくりしていた。 俺は高村に話を続ける。 「対戦を申し入れてくるんだから、今俺たちがおかれた状況は知っているんだろう?」 「あぁ、うん。先週来たときに、どうも様子がおかしかったので、調べさせてもらいました」 「だったら分かると思うけど……いま、こんな風に俺たちがゲームセンターで歓迎されていないのも、雑誌記事のせいでね。 今俺は、完璧なマスコミ不信なんだ」 「……それで、僕たちの挑戦を受けないのと、どういう関係が?」 「『バトロンダイジェスト』の、君たちの記事は俺も読んでる。テレビ放送であんなことを言ったんだ。当然、俺たちとのバトルも記事にするつもりなんだろう?」 雑誌記者の三枝さんは俺の言葉に頷いた。 「だったら、対戦なんて受けられない。結果がどうなるにせよ、何を書かれるか分かったものじゃない。今の状況に拍車をかけられたら、たまらないからな」 「……ちょっと! さっきから黙って聞いていれば随分な言い方ね! うちとあんな低俗雑誌を一緒にしないでもらいたいわ!」 三枝さんがたまりかねたように口を挟んだ。 彼女がカチンときているのももっともだ。 なぜなら、俺自身、わざとひどい言い方をしているのだから。 「俺からしてみれば、大して変わらない。 三枝さん、と言いましたか。 あなただって、バトロンダイジェストの記事を書くにあたっては、俺たちに無様に負けて欲しいでしょう? 『クイーン』の連載記事なら、俺だって雪華の華々しい活躍が書きたい。 俺たちみたいな醜聞のただ中にいる神姫プレイヤーを叩きのめす記事なら、うってつけですから」 「なんてこと言うの……うちに記事が載れば、あなたたちだって、評価があがって、誤解が解けるかも知れないじゃない!」 「随分と上から目線ですね。 俺は取材をしてもらいたいだなんて、一言も言ってない。 むしろ迷惑だ。 だったら、あなた方はむしろ、取材させてくださいとお願いする立場なんじゃないんですか?」 三枝さんは言葉に詰まった。 少し心が痛む。 マスコミへの不信感は本当だ。だが、三枝さん個人に恨みがあるわけじゃない。 三枝さんをダシにして、このバトルを断ろうとしている。だから、彼女に悪いところがあるわけではないのだ。 久住さんの手が、また俺の肩におかれた。 「遠野くん……言い過ぎよ」 「……わかってる」 俺は一瞬だけ、彼女の手に触れた。 久住さんはため息をついただけで、何も言わなかった。分かってくれたのだろうか。 俺と三枝さんが睨み合う。 一瞬の沈黙。 それを破ったのは、雪華の声だった。 「それならば、ティアとの対戦は取材をしないようにしてもらいます」 「って、ちょっとぉ!?」 あわてたのは三枝さんだ。 「あなたたちとは、全国大会までの動向のすべてを取材する契約でしょう!? たとえ草バトルとはいえ、取材しないわけにいかないわよ!」 「ならば、契約を解除します。そうすれば、ティアと戦える」 三枝さんが絶句した。 マスターの高村が口を挟む。 「雪華……『バトルロンド・ダイジェスト』からは、いっさいの取材を断らない代わりに、スポンサードを受けている。そういうわけにはいかないよ」 「スポンサー契約など無くても、わたしたちは全国大会を戦えます。また、契約があるからといって、勝ち抜けるとは限りません。 セカンドリーグの全国大会選手でも、そんな契約をしているのはほんの一握りでしょう。大多数の選手と同様の条件でも、わたしたちは十分に戦えるはずです」 ……何か話が大事になってきた。 雪華の言うスポンサー契約は、神姫プレイヤーが特定の企業や団体と契約を結んで、バトルロンドの活動資金や武装などを出してもらうことだ。 そのかわりに、その神姫はメーカーが提供する武装やパーツを使用したり、ボディなどにメーカーロゴをペイントしたりして、広告塔としての役割を果たす。 通称「リアルリーグ」と呼ばれるファーストリーグは、そうしたスポンサー契約も盛んに行われている。 セカンドリーグではあまりそういう話はない。セカンドリーグ上位の有名神姫プレイヤーくらいだろうか。 雪華は『バトルロンド・ダイジェスト』と契約を結んでいるらしい。 バトルロンド専門誌からスポンサー契約を受けているとは、どれだけ実力があるということなのだろうか。 それにしても、俺たちとの対戦がそこまで重要か? スポンサー契約がなくなれば、資金面で厳しくなる。 そうした契約自体が少ないセカンドリーグとはいえ、全国を勝ち抜くにあたって、資金がないよりはあった方が有利であるはずだ。 それを雪華は、俺たちとの対戦で捨ててもいいと思っている。 いったい、何を考えているのだろう。 「だったら、そんな腰抜けほっといて、俺たちの挑戦を受ければいいじゃねーか。俺たちは取材、大歓迎だぜ?」 その声に、ギャラリーも沸く。 口を挟んだのは、『玉虫色のエスパディア』のマスターだった。 どうも、三強はクイーンに対戦を申し入れて、ことごとく断られたようだ。 にやにやとした笑みを張り付けた顔に、雪華は冷たい一瞥を放った。 「……あなた方との対戦は、意味がありません」 「な……なんだと……!?」 「わざわざここまで足を運んできた意味がないのです。 わたしたちがハイスピードバニーやエトランゼと対戦を望むのは、彼女たちが唯一無二の戦い方をしているからです。 わたしが東東京地区大会のインタビューで挙げた武装神姫は、いずれもそういう戦いを展開し、大会にはエントリーしない神姫ばかりです。 わたしはそのような神姫との戦いを望んでいます。 ただ強いだけの神姫なら、ここまで来る必要がないのです」 高村は、雪華の言葉に、肩をすくめて頷いていた。 なるほど。確かに、ティアの戦い方は唯一無二だろう。雪華はそこに価値を感じているということか。 三強は確かに強いが、大会にでてくる神姫に比べると見劣りがする。戦い方も、標準の域を出ない、というところか。 見れば、玉虫色のマスターは、口をぱくぱくさせながら、怒りの矛先を向ける方向を失っているようだった。 神姫にあそこまで言われたなら、もっと噛みついてきてもいいはずなのだが……何か思うところがあるのだろうか。 そんなことを考えていると、左胸のあたりから声がした。 「マスター……」 「どうした、ティア」 「雪華さんとの対戦、受けてください……お願いします」 突然何を言い出すんだ。 俺は驚いて、ティアを見下ろす。 雪華の様子を見ていたティアは、不意に俺の方へ視線を向ける。 その顔には必死さが滲んでいた。 次へ> トップページに戻る
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「ある日」 この町に来てから三週間が過ぎた。 アタシがこの町に居られるのも、後一週間と少しだけ。 なのにすっかり当初の目的なんて頭の中から無くなり、アタシは今日も公園の木陰で彼等が来るのを待っている。 それにしても暑い。 木々の陰により和らいだ熱の下にありながらも、それでも暑いと感じるのだから日向に居る人たちにはさぞ暑いことだろう。 もう暑いじゃなくて、熱い。 温暖化も二十一世紀初頭に比べればその悪化具合もだいぶ緩やかになってはいるけど、それでもその傾向がマイナスに転じてはいない現在。亜熱帯と化した日本の夏はけっして住み良い環境ではない。 空気が流れた。 体にまとわり付いた汗が、その風に反応して体の熱をほんの少しだけ、奪い去る。 そしてその風と共に、待ち人がいつもの様に現れた。 「また、居たのか。案外お前も暇だねぇ?」 開口一番、憎まれ口を叩くこの男に、会いたくて堪らないのだと自覚したのはいつだったか? 「なんだか今日はどっかのお姫様みたいな格好だなっ!」 今まで自分とは遠くにある存在と思っていた小さな少女も、こんなにも愛おしく感じる。 「こんなに暑いと、スカートだってはきたくなるの。それに帽子だけじゃこの日差しは遮れないでしょ!」 今日のアタシのいでたちと言ったら、フリルのあしらわれた薄手の白いワンピースに白い日傘と、一体何時代だよ! って突っ込みを入れたくなるくらいの時代錯誤な格好だった。 正直照れくさい。 「あぁ~あ。口さえ開かなきゃ、深窓の御令嬢でも通じるのにな」 意地の悪い笑みで男は言う。 「ちょっとー。いくらアタシでも傷つくぞ」 「でもカワイイじゃんかー。ちょっと憧れだぜっ!」 「まて、お前がこんな格好したらそれこそ喋るな! って話になるぞ」 「おう! それはこの刹奈ちんがとってもカワイイって言ってるんだよなぁ?」 かわいい仕草をし、しかしその仕草を台無しにする口調でその小さな神姫は問う。 「だから色々台無しなんだよお前は」 深々とため息をつく夢絃を見て、アタシは思わず大きな声で笑ってしまった。 「……ここにも台無しが一人」 失礼だぞ! 「やっぱり今日もあの時みたいなのは起こらないね」 ヴァイオリンを弾き終えた夢絃にアタシは言った。 「あれって、結局なんだったんだろうなー」 アタシの方に跳ねて来た刹奈は、そう言うとアタシの肩に腰を下ろす。 「ね……ねぇ、体少し熱いけど大丈夫?」 刹奈の座ったアタシの肩が、少しだけ熱を感じる。 「だーいじょうぶなのさー。外気が熱いから、ちょこっとだけ廃熱がままならないだけ。今日も一生懸命踊ったもんなー」 そう言うと刹奈は花が咲くような笑みをアタシに向ける。そして小さな声で「アリガト」と言った。 「あぁ! もう! 刹奈ちんはかわいいなぁ」 もうホント抱きしめたい! ……肩に座っている神姫を抱きしめるのはムリだけど。 「……なんだかんだでお前も結構神姫好きになってきたよな」 ヴァイオリンを丁寧に片付けて、夢絃はそれとは別に持ってきていたリュックを開ける。 「これ、やるよ」 そう言ってそのリュックから取り出した箱を、アタシに差し出す。 「ちょっ……!」 どう見てもそれは武装神姫のパッケージで。 いくらアタシが神姫に疎いからといっても、これが高価なものである事くらい知っている。 ……親友であるセツナのおかげかもしれないけれど。 「こんなの受け取れる訳ないじゃん!」 勢いよく立ち上がってしまう。肩に座っていた刹奈が振り落とされまいとアタシの髪にしがみついた。 「ちょっ! 待てって。……夢絃! 話がいきなりすぎなんだって!!」 「あ? あぁ、確かにそうか」 「朔良もさ、とりあえず話だけでも聞いてよ。判断はそれからでも遅くないだろ?」 刹奈のその言葉に促される形で、アタシは静かにまた座っていたベンチに腰を下ろす。 「えっとな、実を言うとコレ、余りモンなんだ。でもさ、中古屋とかには売りたくねーし、ネットオークションなんて言語道断。だったら俺が気に入った、神姫が好きそうな奴に譲りたいって思ったんだよ」 「余り物って…… それでもこんな高価なもの貰えないよ」 アタシの覚え違いじゃなければ、神姫一体でPC一揃えが購入できるはず。そんな物を「貰えてラッキー♪」とか簡単に言えるほど無邪気じゃない。 「でも、俺はお前に……『朔良』に貰ってほしいんだ」 真剣な眼差しで、まっすぐにアタシを見て、そして初めてアタシの名前を呼んで―― そんなのズルイ。そんなことされたら、絶対に断れない。 「う、ん。……わかった」 熱くなる顔を隠すようにうなだれて見せる。 上手くごまかせたかな? そんなアタシの心配をよそに、夢絃はアタシに一歩近づく。 そして少しだけかがんで、アタシの傍らに神姫の箱を置いた。 「それならさ、明日駅前で会わないか? ここじゃセットアップ出来ないから、神姫センターにでも行こう」 「え? そんなに急がなくても……」 アタシはそう言って顔を夢絃に向けた。 その途端に―― 夢絃の唇で、アタシの口が塞がれる。 それは本当に僅かな瞬間で。 直に立ち上がった夢絃はくるりとアタシに背を向ける。 「明日十時に駅前の広場で。……遅れるなよ」 と言うと振り向きもせずにそのままリュックとヴァイオリンケースを持ち上げる。 「にししししー☆」 耳元で刹奈は笑うと、そのままアタシの肩から飛び降り、そのままの勢いで夢絃の元へ走る。 そんな二人をアタシはただ真っ赤になって見送る事しかできなかった。 そのアタシの手元には、MMS TYPE DEVILと書かれたパッケージが残されていた。 戻る / まえのはなし / つぎのはなし